新聞・テレビにあふれる悲劇や美談だけでは大震災の真実は語れない。真の復興のためには、目を背けたくなる醜悪な人間の性にも目を向けなければならない。福島県内およびその近くでの出来事もその一つだ。

 心底、嫌悪と怒りがこみ上げる話である。被災地選出の国会議員が、やりきれない悔しさを込めて語った。

「福島近郊にある高速道路のサービスエリアで、地元の銘菓や食品類が大量に捨てられている。おそらく、県外の住民が福島で地元の人からもらったお土産を捨てているのだろう。訪ねてくれた御礼に被災者たちが用意したものだったはず。風評被害というには、あまりにも悲しすぎる」

 福島県内の高速を回ると、残念なことにそれが事実であることは簡単にわかった。磐越自動車道・阿武隈高原SA(サービスエリア)の女性清掃職員が証言する。

「確かに、よくお菓子が捨てられています。福島のおまんじゅうだとか、封を切らないお菓子の箱だとか。もったいないなと思ってましたよ。それと野菜も多い。ごみ袋を片づける時に、いつもよりずっと重いからすぐわかるんです。ああ、またかって。じゃがいも、大根、椎茸、りんご。ビニール袋に入っていたり、大根は新聞紙に包んであったり、いかにも実家で分けてもらったという状態のまま、ごみ箱に投げ込まれています。

 息子が福島に住んでいるからわかるんです。嫁は県内産の野菜を食べなくなった。だから、野菜を持たせても、どうすんだかなって思ったりするんですよ」

 福島から外へ出ると、さらに状況は深刻になる。

 東北道を福島県郡山市から東京方面に上り、栃木県に入った黒磯PA(パーキングエリア)の清掃担当職員の証言だ。

「お菓子の箱が捨ててあることが多い。震災前は、箱詰めのまま捨てられているなんてありませんでした。今年になってからも、福島銘菓の『ゆべし』や『薄皮まんじゅう』が捨ててありました。『ゆべし』2箱が、ごみ箱の口が小さいからか、ごみ箱の前に置かれていましたね。ほかに多いのはビニール袋に入った野菜、それとお米も。3キロぐらいの量が、レジ袋を3重にした中に入れて、そのまま捨てられていました」

 同じく栃木県内の上河内SAでは、「放射能への不安から捨てられている物が多いという話は、職員同士でも話題だった」という清掃担当職員たちが、次々に目撃談を話した。

「椎茸から基準値超えのセシウムが検出されたってニュースの時には、椎茸が大量に捨てられていた」

「つい2日ほど前にはモチ米が詰まった2リットルのペットボトルが捨てられていた」

 特に帰省の多かった年末年始に、そうした光景が目立ったという。風評被害をめぐっては、福島の産業への打撃だけでなく、福島出身者への差別も根強く残っている。福島から山梨県内に避難してきた子供に対し、近隣住民から「遊ばせるのを自粛してほしい」との声が上がり、保育園からは「原発に対する不安が他の保護者から出た場合、対応できない」という理由で入園を断わられたという深刻な人権被害を3月2日に甲府地方法務局が公表している。

 こんな酷い二次被害を少しでも減らすために何度でも書くが、福島県で売られている農水産物で健康に害があるとされる物は一つもない。大規模な調査により、県民の内部被曝も年間許容量(1ミリシーベルト)の2%程度という結果が出ている。科学的根拠もなく、危険を煽るエセ学者や市民団体などは、それでもまだ被災者をイジメ続けるのか。

※週刊ポスト2012年3月23日号