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ノーベル賞に山中伸弥・京大教授

ノーベル賞電話対談…山中さんと利根川さん、江崎さん

医療の可能性広げた

電話対談する山中伸弥教授=船越翔撮影

 今年のノーベル生理学・医学賞に8日決まった山中伸弥・京都大学教授は、様々な臓器や組織に変化するiPS細胞(新型万能細胞)を作製し、再生医療など次世代の医療の可能性を大きく広げた。山中教授と、日本人で唯一、生理学・医学賞を受賞している利根川進さん、受賞の先輩格にあたる江崎玲於奈さんが、それぞれ電話対談を行い、ノーベル賞受賞の意義などを語り合った。

利根川氏 傑出した研究 早い受賞に

 ――山中先生、おめでとうございます。日本人の生理学・医学賞は、利根川先生以来25年ぶり2人目。利根川先生、まず、お祝いの言葉をお願いします。

 利根川 あなたが受賞されることは、確信しておりましたが、本当によかったと思って喜んでいます。

 山中 私が医学部を卒業した年に利根川先生が受賞されたのですが、まさか自分が受賞するとは夢にも思っていませんでした。本当に光栄です。

利根川進教授(米ボストン近郊の自宅で)=中島達雄撮影

 利根川 あなたの研究は本当に傑出しているので、ノーベル賞委員会もいつまでも待つ必要がないということで早く決めたのだと思います。

 山中 ありがとうございます。10年ぐらい前に、先生の講演で質問させていただいたことがあるのですが、その時に、研究内容にあまり固執せず、どんどん面白いことをやった方がよいのではないかと言っていただいて、そのことが今日につながっています。本当にありがとうございます。

 利根川 そう言ってもらえて本当にうれしいです。

 ――今回は、成果の発表から6年というスピード受賞、これまで日本人で一番短かったのは利根川先生の11年でした。それだけ、今回はインパクトの大きい成果だと思いますが、利根川先生、評価をお願いします。

 利根川 この研究は、ずば抜けていて、発見の信ぴょう性、確実性が早くから確認されて、インパクトが非常に大きかったと思います。

 ――山中先生の独創性はどのように培われたのでしょうか?

 山中 私自身は独創的だとは思っていません。むしろ、実験結果が独創的というか予想外のことが何度もあって、その結果に引っ張られて自然とそういうところ(独創性)に行き着いたというのが今までの経緯でした。自分が独創的にはなれないけれども、実験結果に引っ張っていただいたと思っています。

 ――日本のiPS研究全体を先導してきた山中先生は、受賞によって世界をリードする役割も背負うことになると思いますが。

 山中 もちろん強い責任を感じています。きょうはこの分野を代表して受賞させていただきましたので、先頭に立って本当の意味での応用を進めていきたいと思っています。またiPS細胞だけではなくて、関連する幹細胞を含めた研究がたくさんありますので、バランス良く全体として、一日も早く患者さんの役に立ちたい、と思っています。

 ――利根川先生も免疫学、そして今では、脳科学の研究でも世界をリードしています。研究者として先頭を走り続けるには何が必要ですか?

 利根川 一番大事なのは、自分がやっていることに、興味が非常に強いということですね。研究者は本当に自分のやっていることが、面白いと感じる気持ちが強くないと、先端の研究を続けることは難しいので、いかに自分の研究に情熱を感じるか、だと思います。

山中氏 難病の薬作り目指す

 ――山中先生はiPS細胞を臨床応用することが重要だとずっと強調されています。今後10年間で考えたときに、iPS研究がどのように役立っていくかお伺いします。

 山中 再生医療に関しては、いくつかの病気について、この10年以内に臨床研究が間違いなく始まります。その結果、いくつかの病気については、一般的な治療になっていくのでないか。特に網膜疾患などについては、10年後はかなり変わっています。

 それからもう一つの薬の開発も、いま世界中でiPS細胞を使って、創薬スクリーニング(探索)がものすごい勢いで進んでいますので、いま有効な治療薬がない多くの病気についても、治療薬が出てきてほしい。私たちの研究所からも一つでも二つでも薬を出したいですし、日本には優れたメーカーが多いので、連携を強めて、難病の薬を作り、貢献していきたいです。

 ――利根川先生は今後30年で再生医療がどう進んでいくとお考えですか?

 利根川 かなり様々なことが行われると思っています。例えば、幹細胞移植の治療、パーキンソン病という、ドーパミンが関係する病気、細胞が死ぬ病気ですが、こういうのも解決されると私は期待しています。

 ――山中先生には、これからもかなりの期待がかかると思いますのでお体に気をつけて頑張っていただきたいと思います。

江崎氏 若者刺激し科学に貢献を

江崎玲於奈博士(茨城県つくば市の自宅で)=安田幸一撮影

 ――江崎先生からお祝いの言葉をお願いします。

 江崎 山中さん、おめでとうございます。ノーベル賞は、科学者に与えられる最高の栄誉。心から祝福を申し上げます。21世紀は生命科学の時代とされますが、わが国は物理学賞、化学賞に比べ、受賞者が少なく遅れているとの指摘もあっただけに、受賞の意義は大きいです。

 山中 江崎先生、本当にありがとうございます。

 江崎 素晴らしい世紀の研究で大変良かった。これは、発見ですか、発明ですか。

 山中 私は発明だと思っています。

 江崎 世紀の発明だと思います。山中さんのような、人間として素晴らしい人が受賞された。私も39年前に、48歳で(ノーベル賞を)もらったが、山中さんは50歳で受賞した。若くしてもらったことを大変うれしく思います。しかも、山中さんの研究は、日本で積み重ねた「メード・イン・ジャパン」の成果。日本の生命科学が世界に誇れることを証明しました。

 山中 ありがとうございます。

 江崎 ノーベル賞をもらうことは日本にとって、あらゆる点でプラスです。さらに、今のiPS細胞を医療に活用するという今後の研究にプライオリティー(優先順位)をつけて、どんどんやってほしいと思います。科学者のエリートになり、日本の若者を刺激し、サイエンスの発展に貢献する様々な役割を演じてもらいたいですね。

 ――日本は最近元気がないと言われていますが、若者を勇気づけるひと言を山中先生からお願いします。

 山中 私は日米両方の国で研究を行っていますが、外国から日本を見ていると、日本人はやはりすばらしい。お互い協力して一生懸命働く、すばらしい国ですので、これからも誇りを持って頑張ってもらいたいと思っています。

 ――どうもありがとうございました。

山中伸弥氏(2012年生理学・医学賞)京都大学教授
利根川進氏(1987年生理学・医学賞)米マサチューセッツ工科大教授
江崎玲於奈氏(1973年物理学賞)横浜薬科大学学長
司会はいずれも、柴田文隆・読売新聞東京本社編集局次長兼科学部長

2012年10月9日  読売新聞)

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