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ジャズで聴くビートルズ

 ここ数か月間、どうもビートルズ関連が騒がしい。実は、ロンドンオリンピックがはじまる前から、噂レベルであったが「年末に向けてビートルズに動きがある……」とささやかれていた。

 そのオリンピックをご覧になった人ならおわかりの通り、開会式の大トリではポール・マッカートニーが登場し、ビートルズの代表曲「ヘイ・ジュード」を熱唱するなど、これ以上にないほどの盛り上がりを見せた。

 ご覧になってない方のために説明を加えれば、今回のロンドンオリンピックの開会式は、イギリスのダンスミュージックを代表するグループ、アンダーワールドが音楽監督を務めたり、マイク・オールドフィールドの派手なバンド・セットが組まれたり、アークティック・モンキーズやミューズなど、いわゆる“00年代ロック”の若手バンドが登場したり、はたまた閉会式ではペット・ショップボーイズやレイ・デイヴィス、ケイト・ブッシュといった重鎮たちがパフォーマンスを行うなど、さながら英国音楽祭といった趣であった。

 もちろん式は、イギリスの歴史における民族や社会に関するテーマが主軸であったが、やはり終わってみれば“音楽”のパフォーマンスが強く印象に残っている。つまりイギリスにおいて、ロックもポップスも国を代表する立派な芸術文化であり、歴史を振り返る上でも重要な存在であるということ。そしてそれはビートルズというグループにそのまま置き換えられる。

 話は戻って、「ビートルズ関連が騒がしい」というのは、今秋になって映画「イエロー・サブマリン」に続き「マジカル・ミステリー・ツアー」のブルーレイ化が実現した。さらに、オリジナルアルバムがこぞってリマスターでLP化されるという情報が入ってきた。なんだかビートルズのこうした発売情報を聞くと、年末が近づいている気分になってしまうのは私だけではないはず。

 とにもかくにも偉大なるビートルズは、いつの時代においても音楽の道しるべであることに間違いはない。世界で最も有名な4人組、ビートルズを通してジャズを聴くのもいいかもしれない。きっと初めての人も取っ付きやすいだろう。ジャズに限らず、ソウルでもカントリーでもイージーリスニングでも、ビートルズの楽曲を取り上げた作品は無限大にあるので、今回は個人的にもフェイバリットなビートルズカバーが収録された作品を選んでみた。

ロックやポップスの枠を超えた“スタンダード”



 まずはジャズボーカリスト/ギタリストのジョン・ピザレリが2007年に発表した『Meets The Beatles』。30〜40年代の古き良きアメリカンミュージックを継承したスタイルはアコースティック・スイングと呼ばれ、根強いファンが多いアーティストの一人。ナット・キング・コールのようなしなやかで中性的な歌声も魅力で、ビートルズの曲もまた違ったエレガントな印象を受ける好盤だ。

 彼の作品を気に入った人におすすめしたいのが、アメリカのピアニスト/ボーカリストのリサ・ローレンが2006年に吹き込んだ『リサ・ローレン・ラヴズ・ザ・ビートルズ』。ジャズというよりライトなポップスに近いアレンジなので、幅広い音楽ファンが楽しめるだろう。意外に知られていない作品なので、この機会にノラ・ジョーンズあたりが好きなジャズボーカルファンにもチェックしていただきたい。

 さて、ボーカルものが続いたので、インストも紹介したい。スウェーデンのピアニスト、スティーブ・ドブロゴスが2010年に録音した『Golden Slumbers』。このピアニストは私の中でも別格の存在であり、この作品も特別な一枚だ。スティーブ・ドブロゴスはノルウェーの伝説的な女性ジャズボーカリスト、ラドカ・トネフと共演して『Fairytales』という素晴らしい作品を残している。ガラス細工のように繊細で透明感のあるピアノタッチが魅力的で、その美しさはビル・エバンスやキース・ジャレットにも匹敵する。ぜひ真夜中のBGMとして聴いて頂きたい。



 最後はその名も“ロンドン・ジャズ・フォー”というグループ。お洒落なデザインのジャケットが物語るように、演奏も実にかっこいい。これは1967年の作品で、ジャズに数あるビートルズカバーの中でもトップクラスのレア度と言われている。ピアノトリオにビブラフォンを加えたカルテット編成もニクい。ブルーノート4000番台直系のハードバップを基調にしながら、ラテンリズムやモーダルなワルツを取り入れるセンスは、さすが英国ジャズらしい。聴きなれたビートルズの曲たちが、見事なまでに“ジャズ”に生まれ変わっている。

 今回、CDが廃盤だったために紹介できなかった作品がいくつかある。ピアニストのラムゼイ・ルイスが1968年にカデットに残した、ビートルズのホワイトアルバム全曲カバーに挑んだ『MOTHER NATURE'S SON』は、さえ渡るチャールズ・ステップニーのアレンジが素晴らしい。女性ジャズボーカルの代表格サラ・ボーンが1981年にひっそりと発表した『Songs Of The Beatle』は、初期TOTOのメンバーが参加した。アレンジャーにはデビッド・ペイチの名もあるのでAORファンも要チェック。カウント・ベイシーが1966年にビックバンドで仕上げた『Basie’s Beatle Bag』も捨てがたい内容だ。

 ジャズにはスタンダードと呼ばれる曲が多数存在して、それを見つけたり、聴き比べたりするのが、ジャズを楽しむ醍醐味の一つである。もはやビートルズも、ロックやポップスという枠を超えた、スタンダードである。良いメロディは形を変えたとしても魅力を失うことはない。この年末はぜひビートルズの流れに乗ってジャズを聴いてみるのはいかがだろう。

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2012年10月26日  読売新聞)
プロフィール
山本 勇樹  (やまもと・ゆうき)
ローソンHMVエンタテイメント 商品販促本部 ロック&ポップス/ワールド&ジャズ担当
1978年生まれ。HMV渋谷店のジャズ/ワールドミュージック・バイヤーを歴任後、現在は本社商品部にてジャズ/ワールドミュージックを担当。「From Melancholy Garden」「In The Sunshine」「Sunny Side Lovers」などのCDの選曲や、プロダクション・デシネ、MUZAKのCDのライナー・ノーツを手掛ける。2010年より音楽文筆家・吉本宏氏と共にbar buenos airesを主宰し、2011年にはカルロス・アギーレを中心に貴重な楽曲を収録したコンピレーションを制作。2010年にはハンドメイドのフリーペーパー「素晴らしきメランコリーの世界」を発行。現在は「Quiet Corner」を編集・発行する。
山本 勇樹

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