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【原子力防災対策】国と地方が連携せよ(10月31日)

 東京電力福島第一原発事故を受け、県と市町村は防災対策の見直しを迫られている。原発立地地域を除く大半の市町村には、事故前に原子力担当の部署がなかった。各市町村ともに専門的な知識や資機材、人材の蓄積が乏しい。
 原発事故の被害が広がった原因の一つは国、県、市町村の連携不足だった。手探りを続ける市町村に対して、国と県の積極的な助言が必要だ。
 原子力規制委員会は、防災対策の区域などを盛り込んだ指針を31日にもまとめる。県も、市町村の手本となる地域防災計画の一部を修正する。原発から半径5キロと30キロを目安にした取り組みに加え、50キロ程度も引き続き検討する見通しだ。距離に応じて、避難の時期や方法、安定ヨウ素剤の予防服用などの対応に差が出るためだ。
 市町村の地域防災計画に原子力災害対策編を設ける県内の重点地域は、事故前まで原発立地地域の6町だった。県は13市町村に暫定的に拡大する案を明らかにした。30キロ圏を中心に、福島第一原発事故で住民が避難したり、屋内退避を求められたりした地域が含まれている。残る46市町村には、住民への情報伝達や他の市町村からの避難者受け入れなどを地域防災計画に入れるように要請する。
 原発から50キロ圏内の地域に位置する県内の市町村数と震災前の人口は、福島第一原発が26市町村の約51万6千人、福島第二原発が24市町村の約58万2千人に上る。県人口の4分の1強に当たる。
 他県の原発との距離も考えることが欠かせない。茨城県の東海第二の50キロ圏には、いわき、塙、矢祭の各市町の一部が入る。新潟県の柏崎刈羽から会津地方の県境は最短で50キロ余りだ。
 福島第一原発事故による放射性物質は地形や風向きなどの影響を受け、同心円状には広がらなかった。30キロ以上、離れた市町村であっても、重点地域より高い放射線量を観測した場所がある。
 50キロ圏の防護策は屋内退避や安定ヨウ素剤の予防服用などが想定されるが、まだ固まっていない。このため、市町村からは「防護策の範囲や避難の基準を具体的に示してほしい」との意見が出始めている。
 国は地域の実情に応じた防災対策を県や市町村に促している。だが、福島第一原発事故は、個別の市町村による原子力防災に限界があることを浮き彫りにした。国や県が市町村の計画作りや訓練に関わり、より良い対策に結び付けるべきだ。(安田 信二)

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