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『東京プリズン』 赤坂真理さん

戦後と個人を見つめる

 「気宇壮大な力作」。戦後の個人と社会全体の空虚感の源に迫る作品は、文芸誌「文芸」で連載を終えたときから、各紙の文芸時評で高く評価された。

 「戦後の問題が、今の私たちにも影響を及ぼしていると直感があった。どのような形で書けるのかを長い間、模索していました」

 2009年、45歳になった私に、15歳のときの私から電話が掛かった。米国の高校に留学していた私は、心細げに「ママ」と電話口でつぶやく。その声をきっかけに、ライフルで鹿を撃つ米国の同級生たち、確固たる<I>を求める社会への違和感……。様々な記憶の断片が呼び起こされる。

 物語には、体験が色濃くにじむ。東京・杉並で1964年に生まれ、中学時代の受験勉強に拒絶反応を起こし、挽回のため米国の高校に入学。だが「何が自由で、自由ではないのか。そのルールさえ分からなかった」。再び不適応を起こし、日本の高校に入り直した。

 挫折感が残り、生きづらさが募った。寺島しのぶ主演で映画化されたトラック運転手と女性が行きずりの旅をする『ヴァイブレータ』(99年)など、言葉が噴き出すような作品はその「副産物」だったとも語る。

 この足元が定まらない感覚は、本当に自分だけのせいなのか。新書などを執筆しながら考えを深め、9年ぶりに出した小説の後半は、米国に留学中の主人公が学校の授業で東京裁判を再現した形を取る。戦争責任の追及のあいまいさが自身へ落とした影に思いを巡らせてゆく。

 <負けるのならそれはしかたがない。でも、どう負けるかは自分たちで定義したいのです>

 「私たちは戦争を体験した親に育てられた最後の世代。時代や社会の空気からそんなに自由でいられなかったと思う」(河出書房新社、1800円)(待田晋哉)

◆次回は『ハーバード白熱日本史教室』(新潮新書、680円)の北川智子さん

2012年7月24日  読売新聞)

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