『未完のファシズム』 片山杜秀さん
通説覆す新鮮な視点
日露戦争の勝利におごり、第1次世界大戦に学ばず、非合理主義が
軍人たちは第1次大戦で物量がすべてという総力戦の性格を理解し、中国・青島で実践。次の総力戦対策を真剣に考えた結果、精神力で物量不足を補い短期決戦を図る考えや、大陸進出で持たざる国を持てる国にしようとする考えが生まれる。だが明治憲法では、一元的な強力政治は天皇以外は誰も行えない。ファシズムは未完のまま、精神力だけが増幅する……。
新鮮な視点が高く評価されたが、第1次大戦を起点に史料を自然に読んだだけと話す。逆に、軍人はバカとの先入観が、当たり前のことを見えなくすると指摘。「指導者が小粒になったのではなく、明治の制度の問題だ」
戦記ブームの中で育ち、日本の負けっぷりが印象に残っていた。執筆を始めると、日本の地理的、歴史的状況の特異性を思った。軍人が背負わされた無理筋の使命を冷笑的に見ず、偉人伝より失敗話こそ世のためになると強調。「頑張らないと生きていけない国だから、無理して爪先立ちになるが、転ぶ時のリスクはすごく高い。原発事故も、地震国なのに安全神話でゲタを履かせたから」。背伸びは慎重にと訴える。
思想史研究のほか、音楽評論などで幅広く活躍する慶応大准教授。建設会社を改装した自宅には90畳もの書庫があり、数万冊を所蔵する。執筆中は他の国や時代だけでなく、自らも重ね合わせたと笑う。「生活のために大量の仕事を受けて追い込まれ、神懸かり的な気合を入れるという、まさに『持たざる国』でした」(新潮社、1500円・小林佑基)
◆次回は『テレビ屋独白』(文藝春秋、1000円)の関口宏さん
(2012年8月21日 読売新聞)
- 『未完のファシズム』 片山杜秀さん (8月21日)
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