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【会津の食】伝統への味付け楽しく(12月12日)

 会津の食文化に新鮮な風が吹き込もうとしている。会津塗と会津の武家料理を組み合わせ、新たな食のスタイルを提案する「会津塗マリアージュ事業」と、伝統を生かしながら現代人の味覚に合った料理作りを目指す「新会津伝統美食普及開発事業」が進んでいる。ともに、観光振興を見据えた意欲的な取り組みだ。大河ドラマ「八重の桜」で注目を集める会津に多様な食の楽しみを加える試みが実を結び、誘客増に向けた好材料となることを期待する。
 会津塗と武家料理を合わせる事業は会津漆器協同組合、会津若松市内の飲食店、県、市、会津若松酒造組合などが手を携え、夏から展開している。資料などに基づき、会津の武士が食していた大豆、コンニャク、ヤマイモ、エゴマ、貝柱、イワナなどを使うとともに、現代の地元野菜なども取り入れた料理を考案する。器は会津塗の盆、わん、皿、杯。現在、日本料理店、居酒屋、レストランなど12店がメニュー作りに知恵を絞っている。早ければ来年2月にも各店にお目見えする。
 単に昔の食卓を再現するのではなく、武家の心得でもある客人を大切に迎える気持ちを織り込んだ創作料理を世に出すのが狙いだ。参加店には料理を口にした観光客の笑顔を思い浮かべながら、アイデアを競い合うよう望む。この種の企画には遊び心も欠かせない。出陣を前にしたスタミナ食、城勤めの疲れを癒やした晩酌のお膳など、物語性を備えた柔らかな発想で料理に楽しさを添えてほしい。
 新会津伝統美食の開発もまた、会津が培った食文化とおもてなしの心を基本に、現代的な食の要素を組み入れる事業だ。会津地方を中心とした飲食店、旅館・ホテル関係者らが会員となり、県とともに取り組んでいる。
 10月の研究会発足式では、有名シェフたちが新しく作った「緑こづゆ」「ニシン山椒漬け奉書巻き」などの試食があった。来年2月まで7回の研究会を開き、40品目程度の料理を完成させる。
 研究会には毎回、会員が数十人ずつ出席し、有名シェフの指導を受けながら新メニュー作りに励んでいる。志を同じくする者が集まっての作業は、向上心を高める上で何よりの刺激となるだろう。シェフの一流の技術と姿勢から学ぶことも多いはずだ。
 会津の売り物が歴史と美しい自然であることは間違いない。ただ、食もまた、旅の大きな魅力だ。面白さや驚き感、現代感覚で「味付け」すれば、伝統料理と会津観光の幅は広がる。(佐藤 研一)

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