論説・あぶくま抄

菊池哲朗の世相診断

  • Check

【IMF・世銀総会】日本の立場示した好機(10月17日)

 国際通貨基金(IMF)・国際復興開発銀行(世界銀行)総会が東京で開かれた。184カ国から約1万2000人が来日した。一部を東北地方でも開催して復興を世界にアピールすべきだと、仙台市を中心に諸行事が行われた。これは重要なことであった。世界の目からは、日本で起きた大地震と巨大津波に原発事故の連鎖は、とんでもなく恐ろしいものであった。この際、好んでそこに住もうとも、新たな投資をしようとも決して思わない出来事だった。
 それが今どのように回復したか、世界中からやってきた有力者にその目で確認してもらう絶好のチャンスになった。震災時に世界中で流された映像情報は強烈だった。人が住んでいる陸地が突然海中に沈んで、原発建屋が大爆発を起こしたのだ。生々しい映像で見たのは人類史上初めてだ。外国人が抱いた印象はそのまま今も残っている。解消する手だてはその目で現場を見る以外にない。
 普段なら決してやってこないであろう世界中のカネを握る官民の特別な人たちが総会で一斉にやってきた。願ってもない機会を得たのだ。いつまでも日本は金持ち国で、経済的には自力でやっていけばいいと思っている時ではない。世界にははるかにたくさんのお金が行き場がないままうろうろしている。今や世界の成長センターであるアジアのどこに投資しようか、彼らは日々決めかねている。目で見て、日本だ、東北だ、福島だと思わせることが重要なのだ。
 投資先として常連になってきた中国が今回、財政省も中央銀行も総会に欠席した。日本との領土問題関連で何か発言を求められ、政治的なリスクを個人的に負う場面ではないと思ったのであろう。結果的に世界の金融を金融界という極めて特別な仲間内で話し合う責任を中国は放棄したわけで、その意味するところは大きい。
 ユーロ危機を筆頭に現時点で世界緊急の課題は、世界的な成長鈍化の局面を解消する金融的な手だてを探ることだ。絶対的な良薬はないだけ。世界のカネを握る人々が直接コンタクトして共通認識をお互いに確認し、危機を拡大するのでなく、安定方向に動かしていく同調心をいかに持ちあうかが要なのだ。「阿吽[あうん]の呼吸」の世界観を共有する時なのだ。
 中国はその責任を拒否したわけで、口には出さないが「中国に世界経済運営を任せることはできない」という心情は全員が心に持ったはずだ。それは日本にとっては絶妙のチャンスであり、いろいろあっても、まだまだやはり日本でしょう、しかも日本以外であれほどの災害をこれほどきれいに処理して、経済システムもちゃんとキープできる国はないでしょう-と、世界の金融人数1000人に訴えることができたのだ。この世界中の心根の変化を今後、日本自身がフォローしてキープしていくことが何よりも大事だ。
(前毎日新聞社主筆、福島市出身)

カテゴリー:菊池哲朗の世相診断

菊池哲朗の世相診断

>>一覧