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あぶくま抄(12月20日)

 農地を荒らすイノシシの急増が来春に懸念されている。「天敵」である狩猟者が原発事故で激減したためだ。放射線への不安をはじめ、仮設住宅で銃を保管できずに「引退」した避難者も多いという。
 イノシシは縄文の昔から身近な獣だ。「猪突[ちょとつ]猛進」の印象が強いものの、実際は賢く、警戒心が強い。雑食性でタケノコやドングリ、クズの根を主に食べる。今が繁殖期で、初夏までに4、5頭を産む。浜通りでは、基準値を大きく上回る放射性物質が体内から検出された。遺伝子などへの影響が人間以上に心配だ。
 作物も狙う。江戸中期、八戸藩領(現在の青森県)では、凶作に加え、イノシシの食害で餓死者が3千人を超す。猪飢渇[いのししけがじ]と呼んだ。以後も被害は続く。鉄砲による駆除が各地で進められる。武器を取り締まった幕府も農民の所持を認めざるを得なかった(新津健著「猪の文化史 歴史編」)。
 急増の背景として、耕作放棄地の拡大も指摘される。草木の茂る田畑は身を隠す格好の場となる。餌が豊富な里にも近い。県内では、作付け制限に伴う手付かずの農地も広がる。増加に拍車を掛けないか。事故は人と野生動物との関係にも暗い影を落とす。

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