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あぶくま抄(12月22日)

 「読む価値がある本は買う価値がある」。本のカバーに記された一文を思い出した。いわき市の書店が使う。音楽CDの年間生産枚数が14年ぶりに前年を上回るのが確実となった。
 日本レコード協会がまとめた。「聴く価値があるCDは買う価値がある」と考える愛好者が増えたのか。ネット配信が主流だけに、情報機器の扱いに疎い年配者にはホッとする現象だ。小遣いをため、欲しくてたまらない一枚をレコード店で買った。手にした時の満足感は忘れられない。傷つき、針が飛ぶまで聴いた。小さなCDに主役は移ったが、円盤型の音源はいつもそばにあった。
 冒頭は19世紀、英国の批評家・思想家ジョン・ラスキンの言葉とされる。世界の海を制覇する大帝国に突き進む時代に生きた。母国は産業革命により経済的に豊かさを増す。一方で、文化への関心が低いままの世を嘆く。読書を勧め、公立図書館の充実を訴えた。何やら耳に痛い。
 書店のカバーは30年以上、絵柄が変わらない。懐かしむ帰省客は多い。本も音楽も人間性を養う大事な糧だ。ラスキンの次の一文も印刷されている。「人生は短い。この本を読めばあの本は読めないのである」

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