論説・あぶくま抄

日曜論壇

  • Check

日本再建は被災地から(11月18日)

 いよいよ解散、総選挙だ-とマスコミは大騒ぎだ。政治の世界は慌てふためいている様子である。しかし、普段はそれなりに政治には関心を持っているつもりの私でさえ何となくシラっとした気分である。
 自民党はただ「早く解散しろ」とばかり言って、どういう政策を持っているのか、私などには全く分からなかった。だから「解散しろ」という叫び声が、「政権が欲しい」と言っているように聞こえてしまった。対する民主党政権も「自分たちはこういう政策でやっている」との力強い説明がなかった。言い過ぎかもしれないが、官房長官会見で記者たちが発する質問を聞いても、政治家と同じで、政策ではなく政局にしか興味がないように思える。
 こんな調子では、誰が政権を担当しても世の中は変わらないという感じなので、選挙と聞いてもシラけた気分になるのだろう。ただ、あまり変わらないと感じるのには、実はもっと深い理由があるのかもしれない。
 現在の世界的な不景気は、構造的なもので、上手な政策で少し上向きになったりしても、一時的な対症療法にすぎないことを、多くの方が何となく感じているからではないか。
 かつて世界経済をリードしていたヨーロッパの経済力は、植民地の自然や人を犠牲にして成り立っていた。それができなくなって破産寸前状態だ。米国や日本、中国もある時期次々に栄え、そして次々に落ち込んでゆきつつある。やがて東南アジア諸国やインドなども同じ道を歩みそうだ。素人である私の目にはそう見える。
 では、どうすればいいのか。世界各地で起きている格差是正の運動は、今の経済構造を何とかしてくれという、人々の切羽詰まった動きだろう。これは古い支配体制を壊す力にはなった。しかし、インターネットなどで集まった人々には組織力もリーダーになる人もいないから、新たな建設はできないのが問題である。
 それに比べて、東日本大震災の被災地で頑張っておられる方々を見ると希望が持てる。中小企業や農林業、漁業の方々も、自分だけが儲[もう]かればいいとは誰も思っていない。社長も従業員も、また農林漁業の人々は一緒に働く人々も、ともに復興できるように、ごく自然に協力し合っている。
 テレビでそうした方々の顔を見ると、皆さん本当に「いい顔」をしておられる。全てを失ったところから、上も下もなく、力を合わせて新しい組織や地域を築いていきつつある。その時、人々の心をつなぐのが、その中で長い間暮らしてきた伝統的な絆だろう。
 政治家も、中央の役人さんも、この動きを従来の尺度で見るのでなく、むしろ学び、それを土台にどっしりとした地域と経済構造ができるよう援助してほしい。
 (小島美子・国立歴史民俗博物館名誉教授、福島市出身)

カテゴリー:日曜論壇

日曜論壇

>>一覧