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【復興元年】課題山積のまま越年(12月31日)

 「復興元年」が暮れる。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの一日も早い復興・復旧という県民の願いが国に通じたとは言い難い。民主党政権の混迷や復興庁の機能不全は暗い影を落とした。避難区域の再編や、除染の鍵を握る中間貯蔵施設の整備も大きな進展はなく、避難者約15万人の帰還はめどが立っていない。課題を残す一年だった。
 野田佳彦前首相は今年を原発事故と闘う正念場の年-と位置付け「福島の再生に全力を尽くす」と明言した。しかし、民主政権は消費税増税関連法案をめぐり、混乱した。党内対立が激化し、小沢一郎元代表支持グループらの不満が爆発した。離党、新党結成につながった。
 消費税増税関連法案の成立を条件に「近いうちに信を問う」とした民主、自民、公明の3党首合意で、永田町は解散風が吹き荒れた。師走総選挙で民主は大敗。自公両党の政権に変わったが、国の来年度予算案決定が年越しになるなど、政治空白の影響は計り知れない。
 復興の「司令塔」を目指した復興庁も期待外れの感がある。本来なら被災地のさまざまな要望を一元的に受け付け、迅速、効率的に事業に着手するはずだった。復興交付金の配分をめぐって被災地と政府が対立し、「復興庁は査定庁だ」との強い批判の声も上がった。
 特に本県の場合は、原発事故による復興・復旧事業が多岐にわたる。除染、道路などの社会資本整備は、環境省や国土交通省などが実質的に業務を担当している。このため、縦割り行政の壁が障害となり、素早い事業執行に支障を来した。調整能力にも陰りが見え、被災地の首長は「省庁間の連携が取れず、復興事業が停滞している」と嘆く。
 安倍晋三首相は29日に、就任後初めて本県を視察し、復興庁の権限を強化し、改善を図る方針を表明した。権限強化は今年2月の発足当時から課題だった。民主政権は、他府省を指導する勧告権を持たせるなど対策を取ったが、効果は不十分だった。被災地出身である根本匠復興相(衆院本県2区)の手腕にも今後、注目したい。
 県内11市町村に設定された避難区域で、再編されたのは6市町村だけだ。再編は住民の帰還、復興計画、賠償の遅れにもつながる。「仮の町」や中間貯蔵施設の整備などの見通しも立っていない。復興の停滞は地域や家族の絆を弱め、原発事故を風化させる。来年は「復興の光」が輝く年にしたい。(佐藤 光俊)

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