天地人 (ライブラリ)

コラム(ライブラリ)

2012/06/26

溶接が何をできるか

 実にすばらしいこと。つまり、東京都溶接協会(横田文雄会長)が江東区(山崎孝明区長)と結んだ災害支援協定のことで、具体的には会員が保有する溶接・溶断装置を積載した作業車等を提供、道路や建築物など崩壊現場で緊急車両の通行妨害となるような障害物除去作業を協力内容としている▼全国の溶接協会では、3・11東日本大震災以来、被災地支援に向けて中古溶接機の提供等地味ながら着実な活動を展開してきているし、このたびのように大震災の経験を踏まえて都溶協が結んだような災害支援協定も極めて有効だ。いずれにしても全国の溶接協会が知恵を絞った活動は、溶接が何をできるか問われる時代において心強い限りで、全国への広がりが期待されるところ▼ところで、まことに私事のことで恐縮ながら、本欄「天地人」の執筆は今号まで馬場信が担当してきたが、今回をもって終了となる。2001年の7月以来だからちょうど11年になる。当たり前のことながら欠号なく書き続けてきたから延べ528回に達した▼この11年、まことに勝手なことを書き殴ってきたという反省が今さらながらにあるが、どうにか持ちこたえてきたのは読者の支援があればこそで、改めて感謝申し上げたい。次号から新しい筆者が担当する。引き続き激励とご愛読をお願い申し上げる。

2012/06/19

溶接図書の新シリーズ

 産報出版ではこのたび溶接図書の新シリーズとして「はじめての溶接シリーズ」を刊行することとし、その1冊目として三田常夫著『はじめてのティグ溶接』を出版した▼小社では創業以来多数の溶接図書を刊行してきているが、この間、シリーズものも時代に合わせていくつも手がけてきた。わが国溶接技術の基礎を築いた「溶接叢書」(全22巻)、普及書の「やさしい溶接シリーズ」(全144巻)や「溶接のかんどころシリーズ」(全14巻)、溶接技術の体系を示した「溶接全書」(全20巻)。普及書の第2世代シリーズとして「溶接の入門シリーズ」(全8巻)と「溶接の実際シリーズ」(全7巻)。また近年では「溶接接合選書」(全22巻=既刊4巻)の刊行が開始され、この間、「ハイテク文庫」を刊行したり、最近ではDVDによるビジュアル教材シリーズ全10巻を刊行している▼このたび刊行を開始したはじめてシリーズはやさしいシリーズや入門シリーズの系譜に続くもので、これから溶接を勉強しようとするものや新しい分野の知見を求めたいとするもの向け。溶接図書分野ではのシリーズへのニーズは全般に弱ってきているのが実情だが、?溶接図書の産報?としては出版社の使命としてあえて新シリーズを刊行、溶接によるものづくりを出版の面から支えていきたいものだと念願している。

2012/06/12

北京エッセンフェア25年

 先週は中国の北京に出張だった。2年ぶりの北京だったが、ここ数年来の北京の発展は著しく、地下鉄は来るたびにその路線数を増やしているし、豪華な高層ビルが林立していて、オリンピック後においても変貌は留まるところがないという印象だった▼今回の北京は4日から新国際展覧センターで開催されていた北京エッセンフェアの取材が目的。今年が25年17回目で、その最初から欠かさずこのフェアに参加している立場から見ると、中国経済の急成長をウエルディングショーを通じて間近に見てきたという印象があり、とくにここ数年来の驚異的急成長には感慨深いものがある▼規模だけなら今や世界トップクラスのウエルディングショーといえるほどで、世界の大手メーカーがこぞって出展している。これまではその日米欧のトップメーカーがリードしてきたが、ここ数年来では地元メーカーの成長も著しい。ただ、技術的には、表面上は随分と日本などに追いついてきたように見えるけれども、子細に見ると、内容的にはまだまだ彼我の差は大きいようだった▼参観者の顔ぶれを見ると、外国人の姿は驚くほど少ない。欧米ばかりか日本や韓国からの来場者もそうだ。一時は世界中から集まったかというほどににぎやかだったのだが、今回など出展者以外では目立たなかった。

2012/06/05

原発を巡るこの頃の動き

 東電福島第一原発事故に関する国会の事故調は先週菅直人前首相を参考人招致して質疑を行った。この模様を新聞やテレビの報道でうかがい知ったが、事故当時の首相でありながら責任逃ればかりで唖然とした。国会事故調は事故調設置法に基づく強制力のある調査委員会なのであり徹底した調査継続が求められる。現在、政府事故調、民間事故調と3つの事故調査委員会が並行して調査を進めているが、いずれにおいても経緯の解明と原因の究明が今後の原発問題を考える上で絶対に必要だ▼他方、経産省の総合エネ調の基本問題委員会は2030年の電源構成の原案をまとめた。原発比率を50%とする現行のエネルギー基本計画の見直し行っているものだが、エネ調では原発比率でゼロ(つまり脱原発)、15%(つまり脱原発依存)、20‐25%(つまり依存度低下しつつ原発維持)、数値なし(つまり市場メカニズムまかせ)の4案を選択肢としている▼原発事故原因究明が進められているこの段階で原発依存度を決定してしまうというのもいかがなものかとも思われるが、もっと驚くことは、エネ調の答申を受けて政府は4案の中から1案に近々にも絞って決定する予定だという。事故の対応には遅々としていたのにここで何を急ぐのか、もっと国民的な議論が必要なのではないか。

2012/05/29

東京スカイツリー開業

 東京スカイツリーが先週22日ついに開業した。タワーはここ秋葉原の産報佐久間ビルからも眺望することができて、いよいよ開業となるとそれなりに感慨深い▼タワーには工事中に現場を取材したことがある。高さ328メートル時点だからちょうど中間点だったが、その巨大な構造物に感嘆したものだった。タワーは3本の鼎立した柱を鋼管トラス構造で組み上げた形になっていて、さらに1本の鼎柱は4本の柱で構成されていて、柱ごとトラスで結んでいるから外見上は太いパイプで網の目を組み上げていったように見える▼パイプは下部の最も太径の部分は直径2300ミリ、板厚100ミリにもなるが、現場ではこれを炭酸ガス半自動溶接で施工していて、1本仕上げるのに4人がかりで3・5日もかかるのだといっていた▼タワーは何事も世界一で、使用した鋼材量が4万トン、溶接材料も1千トンという桁外れ。投入されている溶接員は80人という。この溶接員は技量の付加試験を行って選抜しているということだったが、高くなるにつれてもう一つ条件が加わるということで、それが高所作業に適しているかどうかなのだと聞いて面白かった▼世界一のタワーには世界トップの溶接技術が駆使された。このタワー建設が日本のものづくりに発憤を促してくれるよう願ってやまない。

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