論説・あぶくま抄

あぶくま抄

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あぶくま抄(12月31日)

 一年を締めくくる食卓に並ぶのは、そばだけではない。無事過ごせたことに感謝し、多様な魚が大みそかに各地で食べられる。「年取り魚」と呼ぶ。
 県内の広い地域でサケが珍重される。以前は新巻きザケが軒下で揺れる姿も見られた。相馬地方はカレイなど近海魚の煮付けを食べる。山間部の只見町は、サケに加え「お平[ひら]」が定番だ。産卵期に腹を赤くする川魚アカハラの干物が主役となる。マイタケやゴボウ、油揚げなどを煮て平らな椀[わん]に一緒に盛り付ける(近藤栄昭さんら著「ふくしま食の民俗」)。
 かつてサケの遡上[そじょう]に沸いた双葉郡の請戸川や木戸川などに、にぎわいはない。魚影は戻っているのに…。原発事故で放出された放射性物質が検出され、近海の漁も再開できない。奥会津地方は新潟・福島豪雨の影響でアカハラの不漁が続く。膳から姿を消した旅館さえあるという。蓄えのある家に分けてもらい、年末を迎える家庭も多い。
 「復興元年」が幕を下ろす。住民帰還など一部で明るい兆しが見えたが、漁業再生の道のりは長く険しい。店舗に並ぶ県外産を買うのも仕方あるまい。「来年こそ」。苦い思いとともにかみしめ、再起への誓いを立てる。

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