金融政策に政治介入 市場警戒 日銀、問われる独立性

2012.12.13 05:00

デフレ脱却へ日銀に過度な期待が膨らみ、衆院選では金融政策が異例の争点になっている(ブルームバーグ)

デフレ脱却へ日銀に過度な期待が膨らみ、衆院選では金融政策が異例の争点になっている(ブルームバーグ)【拡大】

 デフレ脱却が衆院選の争点となる中、日銀の金融政策に対する依存度が高まっている。日銀の独立性を弱め、政府が日銀の専管事項である金融政策に深く関わるべきだとの考えも浮上しており、新政権発足後、日銀法の改正も含めた「独立性」をめぐる議論が活発化するのは必至。ただ、市場関係者からは、比較的短期間で政権交代の可能性がある政治が金融政策に介入することへの警戒感も出ている。

 「日銀は、選挙の洗礼を受けない“負い目”がある。政府とは対等にはなれない」。みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは、日銀が政府からの圧力に弱い構造的な問題を抱えていると指摘する。

 デフレは、需要が少なく供給が過剰な「需給ギャップ」で商品やサービスの価格が下がり、企業収益や所得を圧迫する。上野氏は「デフレ解消には政府の産業政策の抜本転換が不可欠で、日銀頼みは的外れ」と指摘するが「日銀は、国民の意思を代表する政治には正面から反論できない」ため、金融政策への圧力が強まりやすい。

 日銀法第25条は、総裁など日銀役員(理事を除く)について「在任中、その意に反して解任されることがない」と、身分を保障している。「中長期的視点で金融政策を担う日銀に対し、政治は短期間での効果を最優先に考えやすい傾向にある」(市場関係者)ため、中央銀行の独立性を担保し、政治の介入を防ぐのが目的だ。

 一方、国の財政が逼迫(ひっぱく)し財政出動の余地が限られる中、デフレ脱却のためには日銀に“矛先”が向くのは仕方がないとの考えもある。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作シニア為替・債券ストラテジストは「日銀の唯一の存在意義は物価安定の実現」と話す。

 政治が日銀にいらだちを示す背景には、めどとする物価上昇率が、他の先進国と比べて低いとの見方もあるからだ。世界の主要中央銀行は物価上昇率の目標を2%程度に設定。これに対し、日銀は今年2月、事実上のインフレ目標として「当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指す」とするにとどめた。

 植野氏は「総裁の解任権を付与するのは行き過ぎ」と日銀の独立性を損なう法改正の議論を牽制(けんせい)した上で、「民間企業は10年も成果を出せなければ責任を取らされる。日銀も従来の手法を見直すべきだ」と、金融政策の公正な評価のあり方について提言した。(小川真由美)

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 ≪日銀の「独立性」を示す日銀法の条文(一部抜粋)≫

 ▽第3条(日本銀行の自主性の尊重及び透明性の確保)

  日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない

 ▽第25条(役員の身分保障)

  日本銀行の役員(理事を除く)は、在任中、その意に反して解任されることがない