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古本屋と探偵とジブリ新作のある「関係」

 古書店や古本に関わるマンガを探しているうちに、豊田徹也さんの『古書月の屋買取行』という作品を見つけた。この作家の短編集『ゴーグル』(講談社)所載のものだ。

 登場人物は、別の作品である『アンダーカレント』(同)のキャラクター、共同で店舗を借りて中古レコード店と古書店を開いている二人。山梨まで、出張買い取りに出かけた帰路の、なんてことはない車内の会話の様子を描いている。わずか2ページというのは、初出が現在は休刊している「彷書月刊」という古書関連の情報雑誌だったためだろうか。

 この作家は、本格デビューが10年前というが、正直なところ、ほとんど知らなかった。2年ほど前に娘が薦めてくれた『珈琲時間』(同)で、その力量に思わずうなってしまったのが、作家を知ったきっかけである。

 この作品集の登場人物の一人である「山崎」という探偵に、ある既視感を持った。関川夏央さん原作・谷口ジローさん画の『事件屋稼業』(双葉社)の主人公、深町丈太郎にどこか雰囲気が似ていたからだ。それも当然だろう。豊田さん自身が、影響を受けた漫画家に谷口さんの名をあげているのだから。

 ところで、古本屋と探偵という関連でいえば、どうしても紹介しておかないといけないミステリーがある。紀田順一郎さんの『古本屋探偵の事件簿』(創元推理文庫)だ。

 その冒頭の一編で重要な役割を担うのが、堀井辰三の『ワットオの薄暮』という幻の本。これにはモデルがある。堀辰雄の「ルーベンスの偽画」(『菜穂子』岩波文庫所載)だ。この作品は私家版が作られ、その一冊に当時の画家・古賀春江の肉筆画が添えられていたという。

 愛書家にとっては垂涎(すいぜん)もののこの本をめぐるドラマは、今から30年前に読んだ時、「さすが紀田先生」と感嘆しきりだった。何しろ、紀田さんは、老生にとっては「心の師」なのだから。まだ20代の青二才の時代、師が柏書房から上梓した『現代 読書の技術』の正続に感銘を受け、(ひそか)(よし)として仰ぎみていた。それだけに、文化部記者としてお会いした時は感激したものだった。ただ如何(いかん)せん、その「教え」をなかなか実行できず、今に至ってしまったのは情けない限りだが。

 それはさておき、堀辰雄といえば、代表作と目されるのは『風立ちぬ』だ。そして、今年のジブリ作品と同じタイトルであることは、昨年末に発表されたからご承知のかたも多いだろう。アニメでは、あの零戦の設計者、堀越二郎が主人公のモデルという。今年はこの堀越二郎が、堀辰雄との「堀」つながりで、出版界のひとつの目玉になるかもしれない。すでに、その著書『零戦 その誕生と栄光の記録』(角川文庫)には、帯に「2013年夏、ジブリ映画のモデル」などと(うた)ってある。さすが、である。



2013年1月10日  読売新聞)

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