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Japan Moves Right 日本の右傾化

欧米、中国メディアは懸念

日本の右傾化を特集した米誌タイム12月17日号

 衆院選をめぐる海外メディアの報道を見ると、日本の「右傾化」を懸念する記事が目立ちます。

 例えば、中国の新華社通信(英語版)は the shift to the right (右傾化)が今回の選挙の特徴だと報じました。

 欧米のメディアも同様です。

 英国のBBC放送は Japan has taken a sharp turn to the right (日本は右寄りに大きく(かじ)を切った)と伝えています。

 衆院選直前に発売された米誌タイム(アジア版)も日本の「右傾化」を特集していました。

 日の丸をあしらった表紙のタイトルは Japan Moves Right (日本が右寄りに動いている)、そして本文の見出しは A Wave of Patriotism (愛国心の波)でした。

 確かに今回の選挙では、憲法の改正や防衛力の増強、集団的自衛権の行使容認を訴える右寄りの自民党、維新の会が躍進しました。一方、こうした政策に反発する左寄りの日本未来の党、社民党、共産党が軒並み議席を減らしました。この点を見れば、日本の政治の重心が右に移ったというのは、その通りでしょう。

世界標準でいえば「中道」

 ただ、一部の海外メディアの「右傾化」報道には違和感も覚えます。理由は二つあります。

 まず、「右傾化」は軍国主義の復活につながりかねない危険な兆候、という論調が目に付くからです。日本人の大半は軍国主義の復活など望んでいないと思いますが、こうした論調は中国や韓国のメディアで顕著です。

 もう一つは、国際的な基準で見た時、自民党や維新の会の主張は「右傾化」と言えるほどのものなのか、という疑問を抱かざるをえないからです。

 世界の主要国は強力な軍隊を持ち、領土・領海の侵犯には武力を背景に毅然とした対応を取っています。集団的自衛権は国連憲章も認める当然の権利になっています。

 自民党や維新の会の主張の大半は、国際的に見れば、常識と言っていい内容です。

 自民党の安倍氏を「タカ派」「ナショナリスト」と呼ぶとしたら、主要国の指導者の大半は「超タカ派」「超ナショナリスト」になってしまうでしょう。

 また、自民党を仮に「右派」と呼ぶとしたら、米国の民主党もフランスの社会党も「極右」になってしまうでしょう。

 自民党が掲げる安全保障政策は、世界を見渡してみれば、「中道」くらいではないでしょうか。

 では、なぜ日本の「右傾化」がことさら問題にされるのでしょうか。

 まず中国による批判には、歴史問題もからめて日本及び海外の世論を揺さぶり、日本の防衛力強化を封じ込めようという思惑が透けて見えます。

 米国には別の懸念があります。何より恐れているのは、日中両国で強硬論が高まり、尖閣をめぐる対立が軍事衝突に発展して米軍が巻き込まれる事態になることでしょう。

 実際、米紙ワシントン・ポストは、日中が衝突したら、「米国は日米安保条約に従って日本側に立つことを強いられるかもしれない」と指摘しています。

 同盟国の米国の懸念は十分理解できます。中国をいたずらに刺激することは避けるべきでしょう。

冷静な思考が必要

 ただ、日本の針路を決めるのは私たち日本人です。

 もちろん排外主義や軍国主義は排すべきですが、野田首相の言う healthy nationalism (健全なナショナリズム)や米国の知日派ジョセフ・ナイ氏が言う moderate nationalism (穏健なナショナリズム)は育てていくべきでしょう。

 また、安全保障政策については、一部の外国政府の主張や海外メディアの論調に惑わされることなく、冷静かつ現実的に考えていくべきです。少なくとも、軍拡路線を突き進む中国に付け入る隙を与えないだけの防衛力や抑止力の整備・強化は粛々と進めていく必要があるでしょう。

フィリピン、インドは歓迎

 最後に付け加えれば、もう少し広く見ると、海外の論調も実は様々です。

 中国との領土紛争を抱えるフィリピンの外相は衆院選の直前、英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、日本の防衛力の増強について、こう述べました。意識しているのは中国です。

 We would welcome that very much. We are looking for balancing factors in the region and Japan could be a significant balancing factor.

 我々はそれ(日本の軍備増強)を大いに歓迎する。我々が求めているのは、この地域で力を均衡させる要素であり、日本はそうした均衡をもたらす重要な要素になりうる。

 インド紙タイムズ・オブ・インディアもこう伝えています。

 Abe's hawkish stand on China is not going to harm India ... in the face of Beijing's growing assertiveness in the region.

 中国が(アジア太平洋)地域で自己主張を強める中、安部氏のタカ派的な対中姿勢はインドに害をもたらすものではない。

 フィリピンやインドは日本に中国をけん制する役割を期待しているのでしょう。

 中国の強圧的な領土拡張戦略にどう対処していくかは安部新政権の大きな課題です。同盟国・米国の力を最大限に活用すべきなのはもちろんですが、対中関係で共通の利害を持つアジア諸国との連携も強めていく必要があるでしょう。

筆者プロフィル

大塚 隆一
1954年生まれ。長野県出身。1981年に読売新聞社に入社し、浦和支局、科学部、ジュネーブ支局、ニューヨーク支局長、アメリカ総局長、国際部長などを経て2009年から編集委員。国際関係や科学技術、IT、環境、核問題などを担当

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2012年12月19日  読売新聞)

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