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テロ指定解除 不完全申告に米が大幅譲歩

 北朝鮮は26日、核問題をめぐる6か国協議の議長国・中国に核計画の申告書を提出し、米国は見返りに北朝鮮に対するテロ支援国指定解除と敵国通商法適用除外に着手した。米朝間の合意に基づく取引だが、米国が北朝鮮に過剰な譲歩をしたという印象はぬぐえない。(ワシントン支局 宮崎健雄、ソウル支局 竹腰雅彦)

米、交渉前進へ「最後の手段」

 「プルトニウムの抽出量を検証可能な方法で断定できれば、核兵器製造の様子を理解するのに役立つだろう」。ライス米国務長官は26日、申告に核兵器の個数が含まれていなくても、プルトニウム抽出量をもとに核兵器の実態を知ることは可能だと強調した。北朝鮮の提出した申告が「完全かつ正確な申告」とはほど遠いという米国内外の批判を踏まえた発言だ。

 ブッシュ政権は、来年1月の任期切れが近づくにつれ、北朝鮮に譲歩に譲歩を重ねた。4月の米朝協議では、今回の核危機の発端となった高濃縮ウランによる核開発や、シリアへの核協力は別文書で取り扱うことに合意。ブッシュ米大統領は別文書案に一度は難色を示したとされるが、ライス長官と6か国協議の米首席代表クリストファー・ヒル国務次官補が、「相手の譲歩を得るには、こちらも譲歩する必要がある」と説き伏せた。

 拉致問題の具体的な進展を求める日本の反対を押し切ったのも、核放棄を促したい強い意欲があったからだ。「米政権はすぐにでも指定解除をしたい。しかし、同盟国の日本も無視できない。日朝関係で、ちょっとでも進展があれば解除するつもりだった」と日米外交筋は述べた。

 米政府は、北朝鮮はじめ、キューバ、イラン、スーダン、シリアの5か国をテロ支援国に指定しているが、拉致や日航機乗っ取り犯の問題が未解決のなか、北朝鮮だけを解除の対象とするのは唐突な感じをまぬかれない。

 ここまで、ブッシュ政権が譲歩する理由は、6か国協議を数少ない外交成果にしたいからだ。ライス長官は先日、ワシントンの保守系研究機関で行った講演で、「北朝鮮は、寧辺の核施設を(6か国協議の合意に基づき)無能力化しており、我々と同盟国は安全になりつつある」と強調した。

 しかし、核交渉の前進と引き換えに米国が北朝鮮に与えたテロ支援国指定解除は、「米国にとって、(北朝鮮に対する)最大かつ最後の手段」(米政府高官)だった。

 ライス長官は、「最終的には、数ある次善策の中で最良のものとなるはずだ」と述べたが、その保証はない。

北、最小限の義務で見返り

 北朝鮮は、大韓航空機爆破事件の翌1988年から続く米国のテロ支援国指定を、体制維持に不可欠な米国との関係正常化の障害と位置付け、長年解除を要求し続けてきた。北朝鮮は結果的に、核兵器を含まない不完全な核申告と、老朽化した寧辺(ヨンビョン)の核施設無能力化という最小限のカードで、目標とする米朝国交正常化に向けた大きな見返りを引き出したと言える。

 北朝鮮にとり、テロ支援国指定解除は将来経済的なメリットにつながる可能性がある。指定がある限り、北朝鮮が世界銀行など国際金融機関への加盟や融資を求めても、米国は反対しなければならず、融資を受けるには指定解除が最低条件だ。同様に敵国通商法も適用除外されないと、制裁で凍結されている約3000万ドルともいわれる北朝鮮の在米資産の凍結解除はありえない。

 ただ、北朝鮮が最終的に不完全とはいえ核申告に応じ、非核化の「第2段階」終了を決断した最大の狙いは、ブッシュ政権との間で核問題と米朝関係を一定の軌道に乗せ、次期政権との交渉につなげる土台作りにあるとの見方が強い。

 韓国の慶南大学北朝鮮大学院の梁茂進(ヤンムジン)教授は「北朝鮮は、2000年当時、クリントン政権との関係進展を最後の段階で躊躇(ちゅうちょ)し、(当初、対北強硬姿勢だった)ブッシュ政権が誕生したのち関係を悪化させた経験を教訓にしている」と指摘する。北朝鮮には、米次期政権が共和、民主どちらの党になろうとも、米朝交渉に臨まざるを得ない環境を整える思惑があるとみられる。

 だが、現時点で北朝鮮に見返りを生み続ける核を放棄する意思はなさそうだ。北朝鮮の軍報道官も9日の談話で核兵器保有を続ける方針を示唆している。当面の焦点となる申告の検証でも北朝鮮が本当に協力するか疑わしい。

 米国は指定解除発効までの45日間に、十分な協力がなければ、解除手続きの撤回もあり得ると警告している。だが、「少なくとも1年は必要」(韓国政府筋)とされる検証作業の方法を期間内にどこまで詰められるかは不明だ。むしろ期限を逆手に取ってぎりぎりまで対応を留保し、最小限の検証受け入れで逃れようとする可能性すらある。

 韓国の西江大政治外交学科の金英秀(キムヨンス)教授は「北朝鮮は約束した申告提出だけで取るべきものを取った。次の段階の交渉相手は米次期政権であり、急いで検証に協力する理由がない」と指摘した。

2008年6月27日  読売新聞)

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