2012-06-08 13:29:40

貧困層の死亡率は富裕層の3倍、うつ状態は7倍も高く、格差拡大による死亡は日本で年間2万3千人

テーマ:ワーキングプア・貧困問題

 一昨日のエントリー を書いていて以前聴いた講演を思い出しました。日本福祉大学教授の近藤克則さんの講演「所得格差がもたらす『健康の不平等』――何が心と社会を蝕むのか」 です。例によって私が気に入ったところだけですが講演の一部要旨を紹介します。(by文責ノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)


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 上のグラフは私が担当した研究プロジェクトで、3万2,891人の65歳以上の高齢者を調査したものです。65歳から69歳で所得が100万円未満の人では、うつ状態の割合が所得400万円以上の人の7.3倍にも達していることが分かりました。

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 そして上のグラフは65歳以上で要介護認定を受けていない2万8,162人を4年間追跡調査したものです。介護保険料区分でもっとも低所得の高齢者と、もっとも富裕な高齢者とを比較すると、低所得の男性は3倍以上、低所得の女性は2倍以上、富裕な高齢者より死亡する割合が高いことが分かりました。所得によって死亡率にこれだけの差があり、高所得層なら避けられている死が低所得層に集中しているのです。

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 また、上のグラフにあるように、健康状態の格差のみならず、医療アクセスにおける格差も顕著になっています。低所得の人ほど医療機関の受診を控え、窓口負担の割合が高くなると受診抑制を招いているのです。


 低所得者は、経済的に余裕がなく医療を受けづらく、要介護状態になりやすいのです。これを予防する施策こそ必要なのですが、今の流れである税や保険料の負担は予防に逆行することになります。


 山梨大学の近藤尚己助教と米ハーバード大学の研究グループによる2009年の研究によると、所得格差が拡大すればするほど人が早く死亡する危険が高まり、格差が原因で2008年の1年間で増えた過剰死亡(死者数)は日本で約2万3千人、日米など15カ国で154万人にも上るとのことです。


 所得格差の指標となるジニ係数が0.3を超えて格差が大きくなると、健康への悪影響が出始めるとのことで、格差拡大による過剰死亡(死者数)は、OECD加盟の30カ国のうち、米国が88万人と最多で、ジニ係数が高いメキシコやトルコが続き、日本は約2万3千人と4位で、イギリスの約2倍に上っているとのことです。所得格差は健康格差につながり、格差社会そのものが健康に悪いことが明らかになっているのです。


 WHO(世界保健機関)の2002年の報告書「健康の社会的決定要因」でも「貧困、相対的貧困、社会からの排除は、当人の健康に大きな影響を与え、死を早める原因となる。貧困の中で生きていくことはいくつかの社会的集団に大きくのしかかる。貧困の中のストレスは特に高齢者に対する害が大きい」、「どの政府も税、年金などの給付金、雇用、教育、財政や他の多くの分野を通して、所得分配に多大な影響を与える。こうした死亡率や罹患率関連の政策の効果に関する明白な根拠は、絶対的貧困を排除し物質的な不平等を無くすことが行政の責務であることを示している。あらゆる人は最低所得、最低賃金を保障され、行政のサービスを受けられるよう守らなければならない。貧困と社会的排除を減らすためには個人と地域の両方に対して政策介入が必要である。法律によって少数者グループや弱者を差別や社会的排除から守ることができる」と指摘されています。


 また、格差社会では人と人とのつながりが弱くなります。ソーシャル・キャピタルと呼ばれる職場や地域社会などでの人びとの信頼関係や結束力が貧しくなるほど、その構成メンバーの健康状態が悪くなるという研究報告も増えています。


 ソーシャル・キャピタルが壊れた社会では、人々の健康状態が悪くなるだけでなく、うつ病の増加で自殺が増えたり、犯罪が増加します。困っていてもお互いに助け合うことが減ってしまい、人々のストレスは高まり、中流層以上も被害をまぬがれることができない不安定な社会状況に陥ってしまうのです。


 なぜ社会が蝕まれていくのでしょうか? それは社会保障を抑制し改悪してきたからです。社会保障は高所得者から低所得者へ所得を再配分する役割を果たしますが、社会保障改悪で格差を拡大させている日本社会は所得再配分機能が非常に弱くなっているのです。


 それでは、健康に良い社会をつくるにはどうすればいいのでしょうか? それには、社会保障を手厚くすることで、所得再配分機能をきちんと取り戻し、貧困と格差をなくすことです。


 「社会保障を手厚くしよう」「格差をなくそう」と主張すると、必ず出て来るのが「社会保障を手厚くしたら働かなくなる」、「平等な社会は経済効率が悪い」、「国際競争力が落ちる」などという意見です。


 しかし、もっとも所得格差の小さい北欧諸国の国際競争力や経済成長率は日本よりも高いのが事実です。日本のように、多くの若者を不安定で劣悪な非正規雇用などの状態に置いていることは、次代を担っていく若者の能力を伸ばしていくチャンスも失っていて、マクロで見れば大きな社会的な損失を続けていることになります。


 また、社会保障を手厚くすると「大きな政府」になって非効率を招くという批判もあります。しかし、これも「効率的な小さな政府」か「非効率で大きな政府」かの二者択一ではなく、北欧諸国などのように、きちんと貧困と格差の問題を改善していく「大きくても効率的な政府」をめざすべきです。

コメント

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1 ■タイトルだけ見るとですよ、

死亡率は生きてりゃ100%ですよ、馬鹿っぽく観えますよ、それで大部分が読まないかもですよ、、、

2 ■無題

政府や行政側のまやかしの如き増税を求める論理への極めて合理的な反証データを視た思いです。
そうなのです。様々な事由で今後人口が減少する我が国は、米国型モデルではなく、北欧型モデルを指向すべきと考えます。
福祉の充実により将来への安心感が得られれば、現役世代も安心して増税を許容するでしょう。我が国の政府施策は、場当たり的で根拠希薄な施策を見直す毎に世相が悪化するのが常態でした。

3 ■当たり前のことだが

人を大事にしない国はいずれ衰退する。
これだけは確実に言える。
今のありとあらゆるやり方では人が育たない。

4 ■小人閑居為不善

誤訳の方がしっくりきますが。

議論の事前準備として信憑性が高い資料や想定問答を用意し、議論が始まったら相手方の提出資料や言い分を検証することは至極当然のことです。


すくらむ氏自ら「例によって私が気に入ったところだけ」と述べたところの近藤克則教授の講演については講演録が見つかりませんでしたが、類似のものとして次の講演録がありました。

講演「『健康格差社会』への処方箋-地域づくりとヘルスプロモーション」,第14回地域保健全国大会(新潟市主催),朱鷺メッセ 国際会議場 スノーホール,2010.11.2

http://mihama-w3.n-fukushi.ac.jp/ins/kkondo/pdf/13chiikihoken2010.11.2.pdf


近藤尚己教授の論文は日本語訳が見つからなかったので論文に関するインタビューと論文。

ニフティ社会貢献プロジェクトインタビュー「格差社会のストレスはストレスを高め健康に悪影響を与える 近藤尚己」

http://kouken-int.nifty.co.jp/blog/2009/12/vol19-6c73.html

近藤尚己「格差社会のストレスは命を縮める」ことを検証した論文(英語)2010,7

http://www.bmj.com/content/339/bmj.b4471.full

健康の社会的決定要因 第2版 日本語版(WHO健康都市研究協力センター)

http://www.tmd.ac.jp/med/hlth/whocc/pdf/solidfacts2nd.pdf


低福祉低負担型である日本と高福祉高負担型である北欧との負担面での観点や生活保護受給者の医療扶助の観点などがきれいさっぱり抜け落ちている点などらしいと言えばらしいです。

5 ■参考資料

数値の解釈などは人によって異なるかと思いますが。


医療保険に関する基礎資料(平成23年11月厚生労働省保険局調査課)

http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/dl/kiso21.pdf


「生活保護」に関する公的統計データ一覧(国立社会保障・人口問題研究所)

http://www.ipss.go.jp/s-info/j/seiho/seiho.asp


「生活保護の医療扶助について」

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1104-3b_0002.pdf


「生活保護の運用に関する資料(通知など)」(神戸公務員ボランティアHPより)

http://homepage3.nifty.com/kobekoubora/seikatuhogosiryou.html

※厚労省HPには掲載されていない都道府県あて通知などが掲載されていて興味深い

6 ■なぜに~

>lさん
申し訳ないですがコピペうるさいんですけど…
俺個人の意見だけど

7 ■無題

結局……

社会的弱者は惨めな人生を歩むしかない


生き地獄ですよ(笑)

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