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生活保護のリアル みわよしこ
【第2回】 2012年7月6日
著者・コラム紹介バックナンバー
みわよしこ [フリーランス・ライター]

妻の浮気相手への傷害で服役、ホームレスに
高齢生活保護受給者のギリギリの暮らしと思い

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小林さんの住むアパートの居室部分。6畳間。うち1.5畳程度のスペースは、介護ベッド(左)に占められている。
Photo by Yoshiko Miwa

 小林さんは午後も、将棋の指導などのボランティア活動を行う。

 「『将棋を教えてくれ』と言われるのは、生きがいで、張り合いです」

 という。

 「収入にならないかと思う」

 とも語るが、それは難しいようだ。小林さんに将棋を習う高齢者たちに、経済的に十分なゆとりがあるわけではないからだ。

 午後5時過ぎ、小林さんは帰途につく。夕食は午後6時ごろ。自宅で米を炊き、作り置きのおかずと一緒に食べる。おかずは、ヘルパーに作ってもらっている。介護保険で「要支援2」と判定されている小林さんは、週に2回、1.25時間ずつのヘルパー派遣を受け、家事・買い物などの支援を受けている。生活保護には「介護扶助」があるが、介護保険が優先適用される。

 午後7時にはベッドに入る。すぐに寝るのではなく、TVを見たり、川柳を作るなどの書きものをしたり、本を読んだりする。眠くなったら眠りにつく。

小林さんの住むアパートの近くには、同様のアパートが多数ある。多くの人々が、慎ましい暮らしを営んでいる。
Photo by Yoshiko Miwa

 生活はギリギリだ。「ガス湯沸かし器が故障した」といったできごとの1つずつが、「その費用をどうすれば捻出できるか」という悩みの種になる。たまには故郷の京都を訪ねて墓参もしたい。最後に京都を訪ねてから、もう2年が経過しようとしている。しかし、交通費を捻出できる見通しはついていない。娯楽や嗜好品に向けるゆとりはほとんどない。2日に1箱のタバコが、唯一の嗜好品だ。

 それでも小林さんは、穏やかな笑顔をほころばせながら「今が一番いい」と語る。「たぶん、そうなのだろう」と筆者も思う。六畳の和室・四畳の台所・トイレ・玄関がある、一人暮らしにはちょうどよい広さの木造アパート。家賃は4万5000円。浴室はないけれど、入浴の機会が何らかの形で確保されていれば、不便というほどの不便はないだろう。

 筆者が小林さんの住むアパートに伺った時には、南向きの窓が開け放たれていた。そこには小さな庭がある。スズメの鳴き声が聞こえてくる。さわやかな風が窓から吹き込み、柔らかな日光が差し込んでくる。お茶をごちそうになりながら、筆者は「長生きは辛いことじゃないはずよ」という中島みゆきの歌の一節を思い浮かべていた。こんなふうに日々を送れるのならば、長生きはきっと辛いことなんかじゃない。たぶん、とても素敵なことだ。

 この穏やかな日々にたどり着くまでの小林さんの人生は、どのようなものだったのだろうか?

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、2匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


生活保護のリアル みわよしこ

急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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