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生活保護のリアル みわよしこ
【第2回】 2012年7月6日
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みわよしこ [フリーランス・ライター]

妻の浮気相手への傷害で服役、ホームレスに
高齢生活保護受給者のギリギリの暮らしと思い

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小林さんの台所にある食器。高級感を感じさせるものは1つもない。
Photo by Yoshiko Miwa

 一方で、小林さんは若年層の貧困者の今後を、非常に憂慮している。

 「今、20代のホームレスが増えてるんだってねえ。このあいだ聞いた話では、新宿で23歳の人がホームレスをしているんだって」

 そう語りながら、小林さんは、孫の将来を案じる祖父のような眼差しになる。20代のホームレスが80代になるころ、果たして、日本は、日本の生活保護制度は、どうなっているのだろう? はっきりしているのは、現在の高齢者世代がその成り行きを見届けることはできないということだ。

 現在の小林さんは、とても温和な高齢者だ。しかし、

 「今後、無年金高齢者・最低生活費にも満たない老齢年金しか受給できない高齢者に対しても、生活保護を受給させる必要はない」

 という極論に対しては、小林さんは、

 「それでは、あなたが、その最低生活費以下の老齢年金で暮らしてみてください」

 と、毅然と反発する。また、

 「生活保護費を削減せよ、生かしてやっているだけで充分ではないか」

 という世間の一部の声に対しても、はっきりと怒りの声を上げる。

小林さんの愛読書の一部。社会保障・政治・経済に関する書籍ばかりだ。
Photo by Yoshiko Miwa

 「人間の生活をどう考えているんだ? と思います。そういうことを言う人たちは、ときどき、ちょっと甘いお菓子を食べたりとかしたくならないんでしょうか? きっと、その人たちには、生活保護が見えていないんだと思います」

 小林勇さんの物語を通して、生活保護という制度の姿が、いくらか明瞭になったであろう。しかし、ただ1人の体験を通して生活保護の姿を立体的にとらえることは、不可能だ。

 次回は、もう1人の高齢者に登場を願い、さらに生活保護の姿を明瞭にとらえる努力をしてみたい。

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、2匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


生活保護のリアル みわよしこ

急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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