Photo by Yoshiko Miwa
一方で、小林さんは若年層の貧困者の今後を、非常に憂慮している。
「今、20代のホームレスが増えてるんだってねえ。このあいだ聞いた話では、新宿で23歳の人がホームレスをしているんだって」
そう語りながら、小林さんは、孫の将来を案じる祖父のような眼差しになる。20代のホームレスが80代になるころ、果たして、日本は、日本の生活保護制度は、どうなっているのだろう? はっきりしているのは、現在の高齢者世代がその成り行きを見届けることはできないということだ。
現在の小林さんは、とても温和な高齢者だ。しかし、
「今後、無年金高齢者・最低生活費にも満たない老齢年金しか受給できない高齢者に対しても、生活保護を受給させる必要はない」
という極論に対しては、小林さんは、
「それでは、あなたが、その最低生活費以下の老齢年金で暮らしてみてください」
と、毅然と反発する。また、
「生活保護費を削減せよ、生かしてやっているだけで充分ではないか」
という世間の一部の声に対しても、はっきりと怒りの声を上げる。
Photo by Yoshiko Miwa
「人間の生活をどう考えているんだ? と思います。そういうことを言う人たちは、ときどき、ちょっと甘いお菓子を食べたりとかしたくならないんでしょうか? きっと、その人たちには、生活保護が見えていないんだと思います」
小林勇さんの物語を通して、生活保護という制度の姿が、いくらか明瞭になったであろう。しかし、ただ1人の体験を通して生活保護の姿を立体的にとらえることは、不可能だ。
次回は、もう1人の高齢者に登場を願い、さらに生活保護の姿を明瞭にとらえる努力をしてみたい。