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生活保護のリアル みわよしこ
【第3回】 2012年7月13日
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みわよしこ [フリーランス・ライター]

“自業自得”で支援を打ち切っていいのか
アルコール依存症者の日常から探る生活保護の必要性

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回復した現在から見る、生活保護への思い

北島さんの現在の最大の楽しみの1つは、アルコール依存症患者の自助グループ仲間とのソフトボールだ。仲間に撮ってもらったという携帯電話カメラ写真。
Photo by Yoshiko Miwa

 現在の生活に「大満足」している北島さんだが「働いている人に申し訳ない」という気持ちもあるという。また、生活保護を受けてのアルコール依存症治療に対して、現状を全肯定しているわけではない。

 現在、北島さんの通う精神科デイケアセンターでは、奇妙な「格差」が発生している。生活保護受給者は、参加者の95%を占めている。自費負担なく、福祉事務所から課せられた義務としてデイケアに参加できる生活保護受給者たちは、自費参加の一般の患者たちより「お金持ち」なのだ。デイケアで昼食費を浮かせられるからである。自費での医療費負担(一日あたり約1000円~約3000円)が発生する参加者には、しばしば缶コーヒー1本程度の余裕もない。

 ごく一部ではあるが、その経済的な余裕を、ギャンブルや酒に使ってしまう生活保護受給者もいる。デイケアセンターの中で、そういう患者たちがパチンコや飲酒の話をしているのを聞くと、北島さんは「いいのかなあ、気を使ってほしい」と思う。ちなみに北島さん自身は、浮いた昼食費を「なんとなく貯めてしまう」そうだ。生活保護生活は、案外「物入り」だ。許される範囲の貯金で備えることは必須といえる。

 また北島さんは、生活保護を受給しているアルコール依存症患者の一部が、何度もスリップ(再飲酒)しては入院して治療を受けて地域に戻り、またスリップ……というサイクルを繰り返しているのを見ていると、「福祉で治してもらえる」という甘えに怒りを覚えるそうだ。「コントロールしてほしい」と思うし、「生活保護で何度でも治療を受けられることが本人にとって良いことなのかどうか?」とも考えてしまうそうだ。

 筆者自身も考えこんでしまう。繰り返されるスリップと再入院は、ゆっくりとした回復への小さな一歩なのかもしれない。しかし、本人が回復を望んでいないとしたら? 将来のいつか回復する可能性に賭けて、治療のレールに乗せつづけることは正しいのだろうか? たぶん、正解のない問題なのだろう。

 次回は、若年層の生活保護受給者を紹介したい。「働かずにラクをしたい」「仕事を探そうともしない」といったイメージは、彼ら彼女らに、どの程度当てはまるのだろうか?

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、2匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


生活保護のリアル みわよしこ

急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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