回復した現在から見る、生活保護への思い
Photo by Yoshiko Miwa
現在の生活に「大満足」している北島さんだが「働いている人に申し訳ない」という気持ちもあるという。また、生活保護を受けてのアルコール依存症治療に対して、現状を全肯定しているわけではない。
現在、北島さんの通う精神科デイケアセンターでは、奇妙な「格差」が発生している。生活保護受給者は、参加者の95%を占めている。自費負担なく、福祉事務所から課せられた義務としてデイケアに参加できる生活保護受給者たちは、自費参加の一般の患者たちより「お金持ち」なのだ。デイケアで昼食費を浮かせられるからである。自費での医療費負担(一日あたり約1000円~約3000円)が発生する参加者には、しばしば缶コーヒー1本程度の余裕もない。
ごく一部ではあるが、その経済的な余裕を、ギャンブルや酒に使ってしまう生活保護受給者もいる。デイケアセンターの中で、そういう患者たちがパチンコや飲酒の話をしているのを聞くと、北島さんは「いいのかなあ、気を使ってほしい」と思う。ちなみに北島さん自身は、浮いた昼食費を「なんとなく貯めてしまう」そうだ。生活保護生活は、案外「物入り」だ。許される範囲の貯金で備えることは必須といえる。
また北島さんは、生活保護を受給しているアルコール依存症患者の一部が、何度もスリップ(再飲酒)しては入院して治療を受けて地域に戻り、またスリップ……というサイクルを繰り返しているのを見ていると、「福祉で治してもらえる」という甘えに怒りを覚えるそうだ。「コントロールしてほしい」と思うし、「生活保護で何度でも治療を受けられることが本人にとって良いことなのかどうか?」とも考えてしまうそうだ。
筆者自身も考えこんでしまう。繰り返されるスリップと再入院は、ゆっくりとした回復への小さな一歩なのかもしれない。しかし、本人が回復を望んでいないとしたら? 将来のいつか回復する可能性に賭けて、治療のレールに乗せつづけることは正しいのだろうか? たぶん、正解のない問題なのだろう。
次回は、若年層の生活保護受給者を紹介したい。「働かずにラクをしたい」「仕事を探そうともしない」といったイメージは、彼ら彼女らに、どの程度当てはまるのだろうか?