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生活保護のリアル みわよしこ
【第5回】 2012年7月27日
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みわよしこ [フリーランス・ライター]

働き盛りの生活保護は本当に許されないのか
急増する稼働年齢層受給者を待ち構える「高い壁」

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「閉じこもってないで、話してみてください」

吉田さんは今でも、無料で配布されている転職情報誌を入手しては、自分に適した求人を探している。
Photo by Yoshiko Miwa

 労災保険にさえ加入していない現在の勤務先。しかし吉田さんは、大きな不満を抱いていない。

 「バイトとして考えたら、最低賃金じゃないし」という。

 今は、再就職ができたことに感謝しており、

 「働くのを第一条件にして、そこから何かを見つけられれば」

 と考えている。しかし、長く勤務し続けることが可能だとは思えない。今は、

 「働けるようなら働いていこうと思っているけれど、2~3ヵ月働いて、それから就職活動をしようという気持ちもあります。すごく迷っています。辞めた方がいいんだろうかとも思います」

 と、迷いで一杯だ。約1年間の就職活動の末に見つけた新しい仕事が、生活保護から脱出することもできないほど悪条件だったとなれば、少なくとも、そこに中長期的な将来を見出すことは困難なのが当然だろう。

バザーや新古書店などで、転職・就業維持に役立ちそうな書籍を安価に入手して、自分の市場価値を少しでも高めようと吉田さんは懸命だ。
Photo by Yoshiko Miwa

 そんな吉田さんは、自分と同じような境遇にある人々に、こう言いたい。

 「僕も頑張らなくてはいけないけど、閉じこもってないで話してみるといいんじゃないでしょうか? 話のできる人を見つけて相談してみると、今まで自分で気が付かなかったところに、気がつくんじゃないかとも思いますよ。いろんな人とかかわり、いろんな見方を教えてもらって、知らないことを教えてもらって、それから自分がまた考える。こういうことが、とても大切だと思います」

 苦境にあるときには、世界が自分に孤立を求めているように思えてしまったりしがちだ。そういう時、自分を追い詰めているように見える問題の1つ1つは、自分自身の就職であったり、職場の人間関係であったり、ごく私的な家族問題であったりするかもしれない。でも、その背景には、社会の歪みや矛盾がある。社会全体の問題に、1人で立ち向かえるわけはない。だから、苦境の時ほど、連帯が大切だ。連帯できるかどうかは、しばしば、生存できるかどうかを決めるほど重大である。

 本連載の第2回~第5回では、生活保護受給者自身の率直な話を紹介した。次回からは、生活保護制度や生活保護受給者を支える立場の人々の日常や思いを紹介し、より多面的に、生活保護の「ありのまま」の姿を捉えることを試みたい。

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、2匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


生活保護のリアル みわよしこ

急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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