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1部  暮らしと社会の安定に向けた自立支援
第2章  様々な場面における、個人の自立と社会の安定に向けた取組み
第5節  非正規労働者で生活困難に直面した人々等に対する支援
2  非正規労働者で生活困難に直面した人々等に対する支援の取組み
(1)  厳しい経済環境の下における非正規雇用者の雇用・生活の安定





1)  派遣労働者の契約解除等に係る指導や有期契約労働者等の雇止め等に関する指導の徹底

労働者派遣契約の契約期間満了に伴う契約の不更新や契約期間満了前の解除に伴う、派遣労働者の雇止めや解雇については、行政機関が雇用主である派遣元事業主に対して雇用維持に努めるよう求めるとともに、派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針及び派遣先が講ずべき措置に関する指針に基づき、派遣労働者の雇用の安定を図るための措置について指導を徹底している。本年3月31日に両指針の改正が行われ、1)派遣契約の中途解除に当たって、派遣元事業主は、まず休業等により雇用を維持するとともに、休業手当の支払い等の責任を果たすこと、2)派遣先は、派遣先の責に帰すべき事由により派遣契約を中途解除する場合は、休業等により生じた派遣元事業主の損害を賠償しなければならないこと、3)派遣契約の締結時に、派遣契約に2)の事項を定めること、等とされた。

また、有期契約労働者等の解雇、雇止め等が行われる場合には、労働基準行政と職業安定行政が連携を図り、労働契約法、労働基準法や「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」等に鑑み、安易な中途解除や不適切な解雇・雇止め等が行われないよう、行政機関として指導を行っている。


2)  住居を喪失した離職者等生活面での支援を必要とする者への就労支援

非正規労働者が解雇等をされた場合、生活の蓄えがなかったり住居を失ったりすることにより、直ちに生活困難に直面し、生活に困窮する可能性がある。このような場合、再び雇用の場を得て自立していくためには、単に就労を支援する以前に、一定の生活基盤を確立するための支援を行う必要があることから、生活、就労両面からの支援が一体となって行われることが重要であり、様々な施策が講じられている。


1)  非正規労働者に対する雇用保険のセーフティネット機能の強化等

雇用保険は離職により収入が途絶えるという危機に際し一定の生活保障を行うセーフティネットとして極めて重要な役割を果たす制度である。非正規労働者の雇用のセーフティネット機能等を強化する観点から、非正規労働者への適用拡大が図られ、従来1年以上の雇用見込みが必要であったものが6か月以上の雇用見込みに緩和されるとともに、労働契約が更新されなかったため離職した有期契約労働者に対し、受給資格要件を緩和して、これまで被保険者期間が12か月必要であったものを6か月に短縮することとした。また、解雇や労働契約が更新されなかったことによる離職者について、年齢や地域を踏まえ、特に再就職が困難な場合に給付日数を60日分延長することとするなどの改正が行われた。


2)  「緊急人材育成・就職支援基金」の創設

昨今、厳しい雇用失業情勢が続いており、雇用調整により離職を余儀なくされた非正規労働者などについては、その失業期間が長期化していくことが懸念されている。このため、平成21年度補正予算において「緊急人材育成・就職支援基金」を創設、2011年度までの3年間、雇用保険を受給できない者に重点を置いて、職業訓練、再就職、生活への支援を総合的に実施することとしている。


3)  住居喪失離職者を対象とした新たなセーフティネット

住居を喪失した離職者の再就職へ向けた新たなセーフティネットとして、ア.住居喪失離職者に対する賃貸住居入居初期費用等の貸付、上記基金による訓練・生活支援の実施等、イ.上記アの施策の対象とならない者等に対し、住宅手当の支給、生活の立て直しのための資金の貸付け等による支援、ウ.公的給付等による支援を受けるまでの間のつなぎ資金貸付を実施する。


ア.  住居喪失離職者に対する住居費、生活費の貸付け、「緊急人材育成・就職支援基金」による訓練・生活支援の実施等


(ハローワークによる就労・生活のワンストップ支援)

非正規労働者の集中する都市圏(北海道、東京、愛知、大阪及び福岡)に「非正規労働者就労支援センター」を、センター未設置の府県の主要なハローワークに「非正規労働者就労支援コーナー」を設置し、求職者のニーズや能力等に応じて、担当者制によるきめ細かな就職支援や住宅確保相談等の生活支援、派遣労働者等からの派遣先での直接雇用についての相談等様々な支援をワンストップで提供している。

特に、住居については、派遣契約の中途解除等に伴い、社員寮の退去を余儀なくされ住居を失った求職者等に対して、雇用促進住宅への入居が認められており、この入居の相談についてもハローワークで対応している。


(賃貸住宅入居初期費用の貸付等)

また、住宅確保対策としては、事業主都合による離職で住居を失った離職者であって常用就職に向けた就職活動を行う者に対し、賃貸住宅に入居するための初期費用(前家賃、敷金、礼金等)や家賃の補助、就職活動費等の必要な資金を、担保・保証人不要で労働金庫が貸し付ける制度を平成20年度第2次補正予算において創設したほか、雇用促進住宅を最大限に活用することとし、こうした離職者を入居あっせんの対象としている。


(訓練期間中の生活保障制度)

非正規労働者が離職し再就職をするに当たっては、それまでの就業を通じて職業能力が十分に身についていないことがネックになる場合があり、職業能力開発が重要であるが、当面の生活が安定しないと、安心して訓練を受けることもできないといったおそれが生じる。

実践的な職業訓練として、専門学校等の民間教育訓練機関での座学訓練と企業等における実習を一体的に組み合わせた訓練(「日本版デュアルシステム」)等が実施されているが、これまで職業能力形成機会に恵まれなかったこと等により直ちに実践的な職業訓練を受講することが困難な者を対象に、基礎学力の向上や基礎的な訓練を内容とし、実践的な職業訓練につなげていく「橋渡し訓練」を平成20年度第1次補正予算において創設した。

また、安心して訓練を受けられるようにするため、訓練期間中の生活費を貸し付ける制度である「技能者育成資金制度」について、平成20年度第1次補正予算において、一定の要件を満たす場合には全部又は一部の返還を免除する制度が創設され、その後貸付要件が緩和されるなど、制度が拡充された。

さらに、平成20年度第2次補正予算では、扶養家族を有する者に対する貸付額が120,000円に引き上げられるとともに、「橋渡し訓練」を受講する者や、派遣労働者等の雇止め、解雇等による離職者であって、公共職業訓練の受講者であるもの等が対象に加えられた。さらに、平成21年度補正予算において貸付要件が緩和され、「所得が200万円以下の離職者訓練受講者のうち、雇用保険等の受給資格を有さない者」とされた(平成21年5月施行)。

また、平成21年度補正予算において、「緊急人材育成・就職支援基金」を創設し、職業訓練期間中の生活保障を行う「訓練・生活支援給付」制度を実施することとしている。本制度は、主たる生計者であるなど一定の要件を満たす者に対して、単身者に月額10万円、扶養家族を有する者に月額12万円を支給し、さらに生活費が不足する者に対して、それぞれ上限5万円又は8万円の貸付けを行うものである。


(事業主が離職者の住居を確保する場合の支援)

一方で、職を失った労働者が社員寮等に入居していた場合、収入を得られなくなるとともに住居を失うという事態を避けるため、事業主がやむを得ず派遣労働者の契約解除や有期契約労働者の雇止め等を行った場合、離職後も引き続き住居を無償で提供した場合又は住居に係る費用の負担をした場合に、事業主に対し、助成を行う制度を平成20年度第2次補正予算において創設した(対象労働者1人当たり月額4〜6万円、最大6か月)。


イ.  住宅手当の支給、生活の立て直しのための資金の貸付け等による支援


(住宅手当緊急特別措置事業に基づく住宅手当の支給)

上記アの施策の対象とならない者等で住居を喪失した者又は住居を喪失するおそれのある者を対象に、就労支援担当者による面接等の支援を受けて就職活動を行っていることを支給要件として、最長6か月間、地域ごとに上限額を設定した住宅手当を支給する制度として、「住宅手当緊急特別措置事業」を平成21年度補正予算において創設した。


(生活福祉資金の抜本的な見直し)

平成21年度補正予算において生活福祉資金を抜本的に見直し、継続的な生活相談・支援と併せて生活費及び一時的な資金を貸し付け、生活の立て直しを支援する総合支援資金を創設するとともに、生活福祉資金貸付の貸付要件を緩和し、連帯保証人を確保できない場合も貸付けを受けられることとした。


ウ.  公的給付等による支援を受けるまでの間のつなぎ資金貸付

公的給付等による支援を受けるまでの間、住居がない場合でも、当面の生活に要する費用を10万円を限度に借りられる「臨時特例つなぎ資金貸付」を平成21年度補正予算において創設した。


3)  離職した失業者等の雇用の場を創出する施策

現下の厳しい雇用失業情勢にかんがみ、地域の雇用機会の創出を目的として、総額4,000億円規模の交付金が平成20年度第2次補正予算において創設された。交付金を元に都道府県に造成した基金を活用して、地方公共団体が委託事業等を実施し、雇用機会の創出を図ることを目的とする。


(ふるさと雇用再生特別交付金)

雇用失業情勢が厳しい地域において、地域の実情に応じて、その創意工夫に基づく、地域求職者等を雇い入れて行う雇用機会を創出する取組みを支援するため、都道府県に基金を造成し、この基金を活用することにより、地域の雇用機会の創出を図ることを目的とする。都道府県、労働局、労使団体等を構成員とする地域協議会において、実施事業を選定後、民間企業等に委託する。事業実施に伴い雇用された労働者とは、原則1年以上で更新可能な雇用契約を締結するなど、地域における継続的な雇用機会の創出を図る。


(緊急雇用創出事業)

都道府県に基金を造成し、当該基金を活用することにより、離職を余儀なくされた非正規労働者、中高年齢者等の失業等に対して、次の雇用までの短期(6か月未満)の雇用・就業機会を創出することを目的とする。地方公共団体が直接又は民間企業等に委託して事業を実施し、これらの者の生活の安定を図ることとする。


4)  雇用維持・確保のための事業主に対する支援

離職した非正規労働者の対策のほか、非正規労働者が離職しないようにする事業主の取組みに対して支援を行っている。


(雇用調整助成金等)

経済上の理由から事業活動の縮小を余儀なくされ、休業、教育訓練又は出向により雇用の維持を図る事業主に対して支給される雇用調整助成金及び中小企業緊急雇用安定助成金について、2008(平成20)年12月19日に策定された「生活防衛のための緊急対策」を受け、従前は雇用保険の被保険者期間が6か月以上の者を対象としていたものを、期間を問わず全員を対象とすることとした。

また、2009(平成21)年2月6日に、大企業に対する助成率の引上げ(2分の1から3分の2)、事業活動の縮小に係る判断指標に「売上高」を加える、休業等の規模要件の廃止、支給限度日数の延長(雇用調整助成金については最初の1年間100日までを200日までに、3年間150日までを300日までに、中小企業緊急雇用安定助成金については最初の1年間100日までを200日までに、3年間200日までを300日までに)、制度利用後は1年経過後でなければ再度利用できないといういわゆるクーリング期間の廃止、時間単位の休業について、従業員ごとに休業することも認めるといった要件緩和や制度の拡充が行われた。

さらに、2009(平成21)年3月30日に、解雇等を行わない事業主に対する助成率の上乗せが行われ、事業所の労働者数が初回の休業等実施計画の提出日の属する月の前月から遡った6か月間の平均の5分の4以上であり、かつ、当該助成金の支給の判定の基礎となる賃金締切期間とその直前6か月間に解雇等をしていない場合、雇用調整助成金については通常の3分の2が4分の3に、中小企業緊急雇用安定助成金については通常の5分の4が10分の9に、それぞれ引き上げられ、非正規労働者の雇用維持に向けた事業主の取組みへの助成が強化された。

その後、平成21年度補正予算において、雇用調整助成金の教育訓練費の引上げ(1,200円から4,000円に)や1年間に200日という支給限度日数の撤廃、障害のある人に係る助成率の引上げ等が行われた。


(日本型ワークシェアリングの促進-残業削減雇用維持奨励金の創設)

また、雇用調整助成金制度の一種として、雇用する有期契約労働者や役務の提供を受けている派遣労働者を対象として、残業時間を削減して雇用の維持を行う事業主に対する助成金制度が2009年3月30日に創設された。

具体的には、売上高又は生産量等が一定以上減少している事業所が、残業削減計画を提出し、事業主が任意に定めた判定期間6か月ごとに1人1月あたりの残業時間が、計画届の提出月の前月又は前々月から遡った6か月間の比較期間の平均と比して2分の1以上かつ5時間以上削減されており、事業所の労働者数が比較期間の5分の4以上で、かつ労働者の解雇等をしていない場合に、1年間を対象期間として判定期間2回に分けて支給される。支給額は、中小企業事業主に対しては、有期契約労働者1人当たり15万円(年30万円)、派遣労働者1人当たり22.5万円(年45万円)であり、中小企業以外の事業主に対しては有期契約労働者1人当たり10万円(年20万円)、派遣労働者1人当たり15万円(年30万円)である(有期契約労働者、派遣労働者それぞれ100人が上限)。


(派遣先による派遣労働者の雇入れ支援)

また、派遣労働者の雇用の安定を図るため、派遣先事業主が、6か月を超える期間継続して労働者派遣を受け入れていた業務に、労働者派遣の期間が終了する前に派遣労働者を直接雇い入れる場合に、1人当たり期間の定めのない労働契約の場合には中小企業で100万円、大企業で50万円、6か月以上の期間の定めのある労働契約の場合には中小企業で50万円、大企業で25万円を支給する派遣労働者雇用安定化特別奨励金を平成20年度第2次補正予算において創設した。


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