「信なくば立たず」は政治の要諦である。どれほど手腕のある政治家であろうと、少しでも後ろ暗いところがあれば一挙に信用を失う。甘利明経済財政・再生相は政治とカネを巡る自身の疑惑について、真摯に答えて有権者への説明責任を果たさねばならない。
指摘された疑惑は(1)千葉県の建設会社がトラブルの仲立ちを経財相の秘書に依頼し、見返りに少なくとも1200万円を提供した(2)経財相本人が現金を受け取ったこともある(3)一部は政治資金収支報告書に未記載である――などだ。政治資金規正法などに抵触するおそれがある。
経財相は「第三者も入れて、きちんと調査する。しかるべきときに説明する」と述べた。2014年に政治とカネの疑惑を問われた小渕優子元経済産業相は調査に1年もかけ、ほとぼりが冷めたころに発表した。「しかるべきとき」を盾にして、時間稼ぎをすることがあってはならない。
秘書の行動の詳細はともかく、経財相自身が現金の入った封筒を手にしたかどうかは即答できそうなものである。「記憶が曖昧なところがある」というのはいかにも不誠実な答弁だ。
経財相は環太平洋経済連携協定(TPP)に関する交渉を所管してきた。安倍晋三首相を支える柱のひとりである。仮に辞任することになれば、政権に与える衝撃は小渕氏のときの比ではなかろう。
だからといって続投ありきでは困る。「安倍1強」の権力を背景に臭いものにふたをしようとしている、と思われたら政権そのものが揺らぎかねない。
首相は「説明責任を果たしてくれるものと確信している」と語った。危機感が不足していないか。事実関係を究明し、直ちに包み隠さず公表するように経財相に命じるべきである。進退にまで波及するかどうかはその調査結果が出てから考えるべき問題だ。
高木毅復興相の醜聞もなおくすぶっている。政策遂行に専念できる体制を早く固めたい。