【コラム】金子達仁 2015年
Jの“いびつさ”が生んだアビスパ昇格の熱
J1昇格を決め喜ぶ福岡イレブン |
ロンドンの中心地を歩いていたら、見慣れないユニホームを着た集団に出くわした――という原稿を、数年前に書いたことがある。
あの時わたしが見た“見慣れないユニホーム”は、昇格プレーオフに出場する2部だか3部だかのチームのものだった。イングランドの昇格プレーオフ決勝は、ディビジョンの上下にかかわらず、聖地ウェンブレーで行われる。
FAカップの決勝に進出するか、イングランド代表にでもならない限りプレーすることがかなわなかったこともあるウェンブレーは、英国人にとって特別な舞台。そして、その特別な舞台に立つことができるのだという興奮が、地方から出てきたのであろうサポーターたちにはみなぎっていた。なんだか、猛烈に素敵だなと思った記憶がある。
12月6日、朝の新大阪駅だった。東京行きの新幹線ホームに向かおうとすると、普段あまり目にすることのないユニホームの集団が大挙して降りてきた。胸にはFJ――福岡地所とある。
アビスパ福岡のサポーターたちだった。
シーズン終盤に入って抜群の安定感を発揮するようになった彼らのチームは、長崎とのプレーオフ準決勝も危なげなく突破し、大阪で行われる決勝への進出を決めていた。サポーターたちは、セレッソとの決戦に臨む選手たちを後押しすべく、博多から乗り込んできていたのである。
率直に言って、試合内容に特筆すべき点はあまりなかった。ただ、スタンドの半分を桜色に染めたセレッソ・サポの熱気はもちろん、決して小さくはないゴール裏を埋めつくしたアビスパ・サポのさまは、鳥肌が立つほどに壮観だった。終了直前に生まれた中村北斗の豪快な“昇格弾”は、ゴールネットの向こうに見えたサポーターたちの熱が生み出したようにも思えた。
サッカー好きの友人のフェイスブックには、喜びのあまり涙を流す少年サポの姿もアップされていた。目にした途端、不覚にもグッと込み上げるものを感じてしまった。
なぜアビスパは本来中立であるべき決勝戦の舞台を、セレッソのホームで戦わなければならなかったのか。今後のことを考えれば、直していかなければいけない点は少なくない。だが、ある種のいびつさがあったがために、今年のプレーオフ決勝は、アビスパ・サポだけでなく、多くの人にとって忘れがたいものとなった。
代表のハリルホジッチ監督が、J1のクラブ数を減らすべきだと提案していると聞く。直近の強化を考えるのであれば、それもありだなと思う。だが、そうなれば、サッカーへの熱が消えていく地域も出てこよう。少なくとも、J2で3位、J1と合わせれば日本で21位になるアビスパが、サポーターを狂喜させることはなかった。
わたしは、熱を大切にしたい。(金子達仁氏=スポーツライター)
[ 2015年12月10日 ]
- Webtools & Bookmarks
- Tweet
バックナンバー
- ガンバ新競技場に期待“東京D誕生の衝撃再現” [ 2015年12月4日 ]
- ラグビーとサッカー 垣根越えチケット販売のノウハウ共有を [ 2015年11月27日 ]
- サッカーが、殺されようとしている [ 2015年11月20日 ]
- 柏木も持っていた背番号7の“異質感” [ 2015年11月13日 ]
- モウリーニョ監督に見る「人心掌握」の難しさ [ 2015年11月5日 ]
- ラグビーの感動 サッカー界が忘れかけた視点 [ 2015年10月29日 ]
- もう敗因にならない肉体的ハンデ [ 2015年10月22日 ]
- 協会お膳立ての「真剣勝負」を選手が無駄にした [ 2015年10月15日 ]
- ドラマは専用競技場で生まれる [ 2015年9月25日 ]
- “持たざる者”に厳しい欧州の移籍市場 [ 2015年9月17日 ]
- 予選の厳しさの差が日米“存在感の差”に [ 2015年9月11日 ]
- 原口は素晴らしかった、だが物足りなかった [ 2015年9月10日 ]
- これほどまでに腹立たしく、また失望させられた3―0は記憶にない [ 2015年9月5日 ]
- 勝利への貪欲な姿勢こそ「マリーシア」 [ 2015年9月3日 ]
- “資金がないからJは弱い”では代表は? [ 2015年8月27日 ]
- 岡崎“得点特化型”認めてもらえる好環境 [ 2015年8月22日 ]
- “新国立論議”に感じられない「お・も・て・な・し」 [ 2015年8月14日 ]
- 「屈辱」感じない姿 J3、22歳以下選抜と同じ [ 2015年8月10日 ]
- 勝敗はどうでもいい。チームの哲学が見えない [ 2015年8月6日 ]
- 男子が振るわない理由は「層の厚さ」 [ 2015年7月16日 ]
- 広がる放送権料格差…日本の対策はいかに [ 2015年7月2日 ]
- “熱狂なき8強”日本人の意識変えた「なでしこ」 [ 2015年6月27日 ]
- ただ寂しくて情けないハリルジャパン「埼玉の悪夢」 [ 2015年6月19日 ]
- W杯へ不安は1ミリもないが、柴崎交代に疑問 [ 2015年6月17日 ]
- ボールの速さ、反応、非の打ちどころがない [ 2015年6月14日 ]
- 誇るべき増加 大学出身者が代表&世界へ [ 2015年6月5日 ]
- 黄金時代の存在が低迷クラブ復活後押し [ 2015年5月30日 ]
- 五輪開催返上より新国立コスト負担選ぶ [ 2015年5月21日 ]
- “メッシ頼みのバルサ”優勝したらどうなる? [ 2015年5月14日 ]
- 浦和、鹿島 アジアでの惨敗は深刻な問題 [ 2015年5月7日 ]
- クラブの格だけで評価するのは時代遅れ [ 2015年4月30日 ]
- テクニシャン減少で露見した“球際に弱い”日本 [ 2015年4月24日 ]
- ストライカー増加に反比例気味の「背番号10」 [ 2015年4月16日 ]
- 目まぐるしく変わる日本代表 どれが本当の顔なのか [ 2015年4月1日 ]
- 前任者のサッカーの良さも新監督は痛感したはず [ 2015年3月31日 ]
- “J2の名将”石崎監督 殻を破れるか [ 2015年3月26日 ]
- ハリル監督、一発勝利より理想路線を [ 2015年3月20日 ]
- 監督交代で高さあるFW台頭の好機 [ 2015年3月13日 ]
- 戦術自在のハリルホジッチ氏 メディアへの柔軟性は? [ 2015年3月7日 ]
- 今は適さない代表の日本人監督 [ 2015年2月20日 ]
- “競技場の魅力”で豪州に逆転されたJリーグ [ 2015年2月13日 ]
- 「尊敬してくれる」より「尊敬できる」監督を [ 2015年2月5日 ]
- バルサができなかった「保持率85%以上」日本人なら!! [ 2015年1月29日 ]
- “挽回可能な痛手”敵地での試合を増やせ [ 2015年1月26日 ]
- 10年に一人の才能とぶつかるUAE戦 [ 2015年1月22日 ]
- 代表150キャップへ 遠藤のまさかは続く [ 2015年1月15日 ]
- 手放しに喜べない…次戦が試金石 [ 2015年1月13日 ]
- 疑惑より結果で監督去就語りたい [ 2015年1月2日 ]