民主党「次の内閣」は28日、安全保障法制に関する民主党の考え方を了承した。



2015年4月28日
民主党

安全保障法制に関する民主党の考え方

1.基本姿勢

日本国憲法の基本理念である平和主義をつらぬく

  我が国は、日本国憲法の基本理念である、平和主義、国際協調主義にもとづき、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善について、同盟国、友好国その他の関係各国、並びに国連を中心とする国際関係機関と協力していく。

  過去の歴史を直視し、その教訓と反省を生かして平和を築いていくことが、現代に生きる我々に課せられた使命であり責任である。とくに我が国周辺をはじめ東アジアの平和と安全並びに共生のために、信頼醸成に向けた外交の戦略的な展開も含め、積極的に取り組む。防衛の目的は、我が国の独立、平和と安全を維持し、国民の生命・財産、基本的人権、領土・領海等を他国からの不正の侵害から守ることである。その目的を達成するために、民主党は専守防衛に徹する。

我が国の主体性を確保しつつ、日米同盟を深化

  一方で、我が国周辺地域は、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が集中しており、多数の国が軍事力を近代化し、軍事的な活動を活発化させている。また、領土や海洋をめぐる問題など、不透明・不確実な要素があるなど、我が国周辺の安全保障環境は多様で複雑になっている。これらの状況のもと、我が国の平和と安全を守るためには、我が国の主体性を確保しつつ、日米同盟を新たな安全保障環境に効果的に対応できるよう深化させていくべきである。

国際平和活動に積極的に取り組む

 また、国連平和維持活動や、人道支援・災害救援、海賊対処等の非伝統的安全保障問題への対応を含め、国際的な安全保障環境を改善するために国際社会が協力して行う活動について、我が国は積極的に取り組むべきである。これら国際平和協力活動にあたっては、隊員等の安全確保に万全を期しつつ、我が国の知識・経験等を活かした能力構築などの支援を戦略的に実施するものとする。

他国軍支援の是非はその都度見極める必要がある

 ただし、我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態への対応を除く、国際社会の平和と安全のために活動する他国軍に対する支援については、テロ対策特措法とイラク人道復興支援特措法における支援理由が大きく異なっているように、その時々の状況によって支援理由や我が国に求められるニーズがさまざまである。これまでの支援の実績は上記特措法の二例しかなく、PKO活動と比べても決定的に経験や知見が少ない事にも留意すべきであり、支援の是非やそのあり方については、その都度見極める必要がある。

「切れ目のない」という名の下に、「歯止めのない」拡大を目指す安倍政権

 これに対して、政府が進める安全保障法制は、総じて見て、「切れ目のない」という名の下に、「歯止めのない」自衛隊の海外での活動の拡大につながるのではないかとの懸念がある。戦後、平和憲法のもと我が国が採ってきた海外で武力行使を行わないという平和主義の原則を、安倍政権は、「積極的平和主義」に変えようとしている。戦後70年目に安全保障政策の大転換を行おうとしているにもかかわらず、このことについて、国民の十分な理解や合意もないまま、前のめりで進めようとしていることに、大いに危惧を感じざるを得ない。
このように国の安全保障の根幹に関わる法案をわずか一会期の国会において成立させようとすることは、国民軽視、国会軽視であり、言語道断と言わざるを得ない。

 以上の基本姿勢にもとづき、現時点における安全保障法制に関する民主党の考え方を以下に示す。なお、新しい日米防衛ガイドラインの内容や、来月に予定されている政府の安全保障関連法案の内容を十分に精査したうえで、さらに議論を深める必要性があることは言うまでもない。

2.自衛権について

専守防衛に徹し、現実的で責任ある安全保障政策を追求する

  • 民主党は、党の綱領や、民主党政権時代における防衛大綱に示したとおり、現実に存在する脅威を直視し、それに対処するため、動的防衛力構想に基づき精強な防衛力の着実な整備を行い、日米同盟とあいまって抑止力を高め、国民の生命・財産、領土、領海を断固として守っていく。
  • 民主党は、我が国を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ、近隣有事における日米同盟協力の深化などについて必要な措置を取るべきものと考える。このため、個別的自衛権における武力攻撃の着手の評価のあり方、周辺事態法や海上輸送規制法改正等の可能性も含め、必要な措置を検討する。さらに、ミサイル防衛やサイバー空間における脅威への対処の必要性等について不断に検討を行い、我が国の平和と安全について現実的で責任ある対応を行う。
  • その際には、現行憲法のもと「相手から攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限度のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢」である専守防衛に徹する。
  • なお、安倍政権は、引き続き専守防衛を維持するとしているが、集団的自衛権行使を容認するなど、意図的に変質させていると言わざるを得ない。

政府の新三要件は歯止めがない

  • 政府から示された武力行使の「新三要件」は、その発動や、対応にかかる基準が曖昧で、時の政府の判断次第でいかようにも当てはめが可能であり、我が国の武力行使が許される範囲が恣意的に伸縮・変化することから、歯止めがきかない。

政府の新三要件は便宜的・意図的であり、立憲主義に反した解釈変更である

  • 民主党は、安全保障総合調査会・憲法総合調査会によってとりまとめられ、2014年3月4日の「次の内閣」にて了承された「集団的自衛権をめぐる憲法解釈の変更に関する見解」にて、「内閣による憲法解釈について、内閣みずからが諸情勢の変化とそれから生ずる新たな要請を考慮し、変更する余地があることは、法令解釈の基本に照らし否定しない。しかし、その余地は、いかに諸情勢の変化とそれから生ずる新たな要請があったとしても、従来の解釈との整合性が図られた論理的に導きうる範囲に限られ、内閣が、便宜的、意図的に変更することは、立憲主義及び法治主義に反し許されない」、「安倍内閣による解釈変更と見られる対応がなされた場合、立憲主義と法治主義の見地から、従来の解釈と整合性が図られた論理的な解釈であるか否かを、厳しくチェックする」とした。
  • これに照らせば、集団的自衛権に関する昭和47年政府見解は、自衛権の行使は我が国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られ、集団的自衛権行使は憲法上許されないという結論であったにも関わらず、安倍内閣の新三要件による解釈変更は、その一部分だけを取り出して「基本的な論理」を導き出したものであり、便宜的、意図的であると判断せざるを得ない。
  • 戦後の日本が維持してきた、相手から攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使するという、専守防衛の根幹から明らかに逸脱している。

政府の具体例は集団的自衛権の立法事実がない

  • 政府が国会審議において集団的自衛権を行使して対処しなければならないと繰り返し主張した、邦人輸送中の米輸送艦防護の事例や、ホルムズ海峡における機雷掃海の事例について、国会による質疑及び民主党が政府から聴取したところでは、説得力ある説明が全くなされていない。
  • 邦人輸送中の米輸送艦防護の事例は、なぜ民間や他国軍の船舶でなく米艦のみを対象としているかが明らかでないことも含め、集団的自衛権の行使につながるものとは解されない。また、ホルムズ海峡の海上封鎖については、我が国が武力行使をもって解決すべき日本の存立を脅かす事態に相当するとは考えられない。
  • これらの事例が発生する蓋然性や切迫性には大いなる疑義があり、これらの事例のみで集団的自衛権行使の必要性を導く立法事実は認められない。
  • 以上、専守防衛に徹する観点から、安倍政権が進める集団的自衛権の行使は容認しない。

3.グレーゾーン事態について

運用改善ではなく、領域警備法を制定する

  • いわゆる「グレーゾーン事態」に関して、海上保安庁による対応を第一義としつつ、海保・警察・自衛隊の連携強化や、治安出動や海上警備行動の発令迅速化等を内容とする、「領域警備法」を制定する。
  • 政府のように運用改善だけでは、グレーゾーン事態に対処するには不十分であり、法整備を行うことで、国民が求めているより迅速でシームレスな対応が可能になる。また、これらの対応が国民に「可視化」されることで、自衛隊の行動に対する民主的なコントロールの向上をめざす。

4.周辺事態法について

「周辺」の概念を堅持する

  • 安倍政権は、周辺事態法において「周辺」の概念をなくすなど、「切れ目のない」安全保障法制という名のもとに、「歯止めのない」自衛隊の海外での活動の拡大をしようとしているとの懸念がある。これに対して民主党は、「周辺」の概念を堅持するとともに、「周辺地域」についてこれまでの政府解釈(注)を遵守することとする。
  • 現行法では、自衛隊が実施する後方地域支援・後方地域捜索救助活動・船舶検査活動について、原則事前の国会承認の対象とされている。これを、法制定時の民主党修正案をベースに、(1)基本計画全体について事前の国会承認、(2)対応措置の継続について一定期間ごとに事前の国会承認の対象、とする。
  • 後方地域支援等について、対象や場所、支援メニューの在り方に関し、(例えば発進準備中の航空機への給油・整備や新たな技術革新に伴う措置等をはじめとして、)(1)ニーズがあるのかどうか、(2)どのようなケースにおいて可能とするのか、(3)「武力行使との一体化」との関係、を十分に精査・検討し必要な措置を講ずる。

(注)「周辺事態が生起する地域にはおのずと限界があり、例えば中東やインド洋で生起することは現実の問題として想定されない」(1999年4月28日参議院本会議小渕総理大臣答弁)

5.PKOについて

国連PKO活動における新たなニーズに対応する

  • 伝統的な停戦監視から長期的な平和構築活動へと国連PKO活動の軸足が変化するなかで、国際平和協力法制定時に想定されていた任務の範囲を超えるニーズが生じている。これら状況の変化を踏まえ、民主党政権時において検討していた事項(2011年7月4日内閣府PKOの在り方に関する懇談会「中間とりまとめ」、2011年8月25日民主党外交安全保障調査会報告「国際平和協力活動へのより効果的な対応」)のうち、従前の憲法解釈の範囲内において実施が可能と考えられ、かつ、早期に解決を図ることが特に必要なものと考えられる、(1)DDR、SSR等、平和構築分野の活動の実施のためのメニュー追加、(2)宿営地の共同防衛、(3)PKO活動に従事する自衛隊による、災害対処を行う場合に限った米・オーストラリア軍等ACSA締結国に対する物品・役務の提供のPKO法上の根拠の整備、について、速やかな法改正を目指す。
  • 「文民等保護措置」及び「任務遂行のための武器使用」については、(1)現在のPKO五原則に則ること、(2)国又は国に準ずる主体が活動する地域に存在しないことを常に確認していること、(3)緊急で他に代替手段がなく、最小限度にとどまり、且つそれがその緊急時を終えても継続的に実施されるものでないこと、(4)中立性を維持すること、(5)国会の関与を万全にすること、等の条件を満たさない場合は認めない。
  • 尚、PKO法に基づく国際平和協力業務の類型として、治安維持任務(巡回、検問、暴徒等による破壊活動の鎮圧・防止、拘束、等)を追加することとは認めない。
  • PKOの派遣に際しては、中立性を担保する措置をとると共に、実際の活動に際しては、国連の不偏性の原則に留意する。

6.国際社会の平和・安定の為に活動する他国軍への支援について

恒久法ではなく、特措法を検討する

  • 国際社会の平和と安全のために活動する他国軍に対する支援の是非やそのあり方については、その時々の状況が異なるので、その都度、正当性や支援理由、国民合意、安全確保などを慎重に見極める必要がある。
  • よって、個々の与件を考慮することのない派遣ありきのいわゆる恒久法を制定するのではなく、必要に応じて特別措置法を検討することで対応すべきであると考える。
  • 特別措置法を制定する際は、(1)国連決議があること、(2)我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資するものであること、(3)武力による威嚇又は武力の行使に当たるものでないこと、(4)他国による武力の行使と一体化しない仕組みが確保されていること、(5)自衛隊員等の安全が確保されたものであること、(6)国会の事前承認とすること、の原則等を踏まえて検討することとする。
  • より強い民主的統制を担保するために、国会による監督・関与を確保するべく、新たな法的枠組みの制定等を検討する。

「現に戦闘行為を行っている現場でない場所」という概念は容認しない

  • 従来の「非戦闘地域」は、我が国が実施する協力支援活動等の措置が、他国による武力の行使と一体化することにより、我が国が武力を行使したとの評価を受けることがないようにするため、我が国の活動する地域を限定する趣旨で設けられたものである。
  • 「非戦闘地域」に比べ、「現に戦闘行為を行っている現場でない場所」という概念に基づけば、活動可能な地域は、現在より大幅に拡大すると考えられる。現時点では「現場でない場所」の具体的な範囲を画する基準が明確でない上、その「場所」における支援の実施については、他国軍が行う武力行使への関与の密接性が高まり、地理的関係がより近接することや、実態上、支援活動の一時休止や中断が、その時において本当に可能なのか等、いわゆる「武力行使の一体化」回避の点から問題がある。
  • また、過去の派遣の実体験に基づくとしながらも、これまでどの様な不具合があったのか等変更すべき論拠が不明であることや、自衛隊員の安全確保にも著しく懸念がある等、問題点が多い。我が国の派遣部隊が、必要な期間を通じ必要な支援を行う上での万全な枠組みを欠いており、派遣のための立法的な責任を果たしているとはいえない。
  • よって、「現に戦闘行為を行っている現場でない場所」という概念を採ることは、容認しない。

以上