6月4日の衆院憲法審査会と22日の衆院安保特別委員会で政府の安保法案を違憲と断じた憲法学者の一人、慶應義塾大学名誉教授の小林節氏が、党外務・防衛合同会議で6月24日に講演した。

あらためて政府の安保法制の違憲性を説く

慶應義塾大学名誉教授・弁護士 小林 節(こばやし せつ)氏

慶應義塾大学名誉教授・弁護士 小林 節(こばやし せつ)氏

 過激な表現ですが、この「戦争法案」を葬ることが最大の安全保障だと本当に思っています。

 自民党のトップブレーンの論理は簡単で、まず国際法上、国連憲章にあるように独立国家には自然権としての自衛権があり、それには集団的自衛と個別的自衛がある。

 しかしご承知のように、この法案は憲法に違反し、同時に自民党が積み上げてきた従来の政府見解にも違反している。日本国の公務員がその任を担う以上は、日本国憲法に反することはできません。

 彼らが都合良く引用する日米安保条約にも、それぞれの国は条約上の義務を「それぞれの憲法上の規定に従って」行使するとあります。憲法と国際法の内容が別であれば憲法が勝つ、これは国際法の常識です。

 「国際紛争を解決する手段としての戦争の放棄」という文言は侵略戦争のみを指し、自衛の戦争は世界で慣習法として認められてきました。だからわが国も、憲法9条1項を見ると自衛戦争はできるように読めます。しかし9条2項では日本は軍隊を持てないと言っており、さらに法的な意味での戦争の資格、交戦権も奪っています。

 自衛隊法はその体系から分かるように、「必要最小限」という警察官職務執行法の発想で定められています。専守防衛、つまり外へ出て軍事活動する資格はないが、外から軍事活動が入ってきた場合には警察ではどうにもならないので、それを超える火器を持つ自衛隊がいる。姿は軍隊ですが、そもそもは警察予備隊として始まった第二警察である以上、わが国の領土・領海・領空及びその周辺域にとどまり、攻撃を押し返すしかできないのがポリシーです。海外派兵や海外で他国の武力行使と一体化することは禁止されています。憲法には全てその根拠があるのです。

「違憲・危険・高価」な愚策である理由

 どんな言い訳をしようと、海外に派兵して他国軍を助ける以上、集団的自衛権というのです。また後方支援とは、最前線で引き金を引く以外の軍隊の仕事は全部できるんですね。後方支援がないと最前線では引き金が引けないのですから、これを戦争参加ではないと言うのはおかしい。刑法で例えれば、銀行強盗犯を自分の車で送迎しておいて私は関係ないとは言えませんよね。しかし、彼らは確信犯で「バカの壁」を装っ   
         ているんです。
 この法案は違憲で、危険で、高価です。安倍総理は防衛予算を増さないと言いました。それでもいいですが、だったらなぜ日本が危ないと騒いでいる人たちが、限られた自衛隊を海外に出して日本を手薄にするんですか。愚策で危険ですよね。
 私はアメリカの当局から何度も「日本はいつ9条を改正して、アメリカとともに戦争をする国になってくれるのか」と聞かれました。すなわち米軍の二軍のような国です。戦争とは高額な花火大会を年中やるようなもので、一方的消費なんです。安倍総理に従ってそれに付き合えば、日本も米国とともに戦費破産しかねません。
 合憲、安全、安価な代案もあります。伝統の専守防衛です。限られた資源を日本列島に集中する。日本は国連の第2のスポンサーであり、ODAにもかなりの大枚をはたいているのだから、もっと誇りましょう。PKOもやり方を間違えなければ良いことです。留学生や研修生の受け入れなど、良いことをたくさんやっているじゃないですか。自衛隊の運用についてもう少し法律と訓令のレベルでの工夫も必要です。憲法に触れなくてもできるはずなんです。

正論の繰り返しをもって独裁政治をくじく

 この講演に先立ち立憲デモクラシーの会で、東大の樋口陽一名誉教授や早稲田大の長谷部恭男教授、法政大の山口二郎教授と記者会見を行い、きちんとした反対声明を出して、メディアの方々には自民党のトップブレーンと公開討論をやらせてほしいと提案しました。

 私どもが戦争法案と呼ぶこの法案を、彼らは平和なんたら法案と言うそうですが、こうしたごまかしではなく、例えば「重要影響事態」を「他国の軍隊に後ろからジョイントして戦争する事態」と言い換えれば、皆ちょっと待ってくれと思うわけですよね。与党は、国民が「何だか面倒くさいな」と思っているうちに事を進めようとします。しかし6月4日の憲法審査会で、自民党推薦の長谷部教授を含む参考人全員が明確に「違憲」と言ったことが事件となりました。

 あの日、国民は急に気付いてしまったのです。政府自民党が何かやましいことを行っていると。

 この法律の成立を許せば、日本に、「権力担当者によって憲法を無視できる」という悪しき前例ができてしまう。これは法治主義ではなく、北朝鮮のような人治主義です。自民党は3割の得票で7割の議席を取ってあれほど強気になっている。でも、民主党も政権を取ったことがあるのを思い出して下さい。もちろんあの風はもう簡単には吹きませんが、まだやり方はありますよ。

 この法案が通った時に備えて、もちろん違憲訴訟の準備もしています。しかし、まず来年の参院選挙で彼らのもくろみをくじくことです。

 6月4日を機に、眠ったような憲法審査会の面々の白い顔が真っ赤になったあの日以来、私は見知らぬ人たちから激励され握手を求められ、色紙まで求められました。今こそ攻め時だと思います。

 確信犯の「バカの壁」に国民は気付いていますから、あとは人を変え表現を変えて、とことんその壁の前で正論を言い、無視されるパフォーマンスを続けてください。辛いですが、政治家は言論がお仕事です。長引けば選挙も近付き、自民党の参院議員の人たちも動揺してくると思います。もちろん私も、機会のある限り言い続けます。

(プレス民主7月17日号より)