終戦から70年。戦争を経験した世代の高齢化が相当に進み、戦争の記憶が薄れ、消え去ろうとしている中で、わが国が進む方向が大きく変わろうとしている。藤井裕久顧問に林久美子広報委員長が話を聞いた。

日本のあり方、進む方向が問われている

 林 今政治の真ん中にいる方、経済界も含めてですが、どんどん戦争を知る世代がいなくなっています。

党顧問 元財務大臣 藤井 裕久(ふじい・ひろひさ)

党顧問 元財務大臣 藤井 裕久(ふじい・ひろひさ)

 藤井 2005年、その時も岡田克也さんが代表でしたが「近現代史研究会」をスタートさせました。その端緒は、小泉総理の靖国参拝です。いずれも歴史を知らない人間が、賛成、反対を言っていることは困ったことだと。歴史をきちんと学ぶことによって、そういうことに対する判断を決めてもらいたいということです。

 それから1年後に、「歴史をつくるもの」(坂野潤治・三谷太一郎 著)という本を監修しましたが、その序文に田中角栄さんの話を書きました。私は田中内閣の時に内閣官房長官の秘書官でした。その時角栄さんが言われたことは、「世の中の中核、政治や経済界に限らず、地方の中心人物たちも含め、戦争を知っている人がそういう立場にいる限り日本は絶対大丈夫だ。この人たちがいなくなった時が問題だな」と。それとね、「また(戦争の苦難を)経験しろと馬鹿なことを言うつもりはない。(歴史を)勉強してもらう以外にないな」ということも言っていました。

広報委員長 参院議員 林 久美子(はやし・くみこ)

広報委員長 参院議員 林 久美子(はやし・くみこ)

 林 先日も、山崎拓先生、亀井静香先生、武村正義先生と共同で記者会見をするなど、いろいろなところで発言されていますが、今の日本の政治状況はどうでしょうか。

 藤井 安全保障政策という個別の政策について議論をしているが、現実は、日本のあり方、これから日本がどういう方向に向かうのかという非常に大事な時期にあるように思います。

 これまで若い人たちは、戦争というものを物語として考えていた。映画のようなものですね。ところが、安倍総理のやり方を見て、「本当に戦争をするんじゃないか」と認識する若い方が、非常に増えましたね。ある意味で安倍総理は反面教師になっていると思います。平和というものに、これまで特に気にかけることもなかった。このまま続くという認識だったと思います。そこに安倍総理が出てきた。日本の国を危険な方向に変えていくのではないかという認識が、若い方の中で非常に増えました。映画ではない。自分も死ぬかも知れないという認識を持つ方が増えてきた。そういう意味で、安倍総理効果はあったんじゃないかな。

説明が不十分ということは、説明が出来ていないということ

 林 同じ経験をして戦争を学ぶことはできないし、するべきではない。しかし歴史を学び、これからの未来を想像する力が、本来人間には備わっているはずです。

 藤井 その通りです。安倍総理の今度の安保法案の方向付けは非常に論理的ではない。答弁などを聞いても最後まで誰も分からないと思いますね。説明がつかない。

 岸内閣の時に砂川事件の問題がありました。その砂川事件では集団的自衛権という話は一言も出ていない。米軍基地を拡張するに当たって、多くの人が反対運動をした。そしてそのことが裁判になった。米軍の駐留というものが、憲法に違反しているかしていないかの裁判であって、集団的自衛権の話は一言も出ていない。もう一つ僕は怒りを感じているが、1972年の田中内閣の時にまとめたいわゆる72年政府見解のことです。当時の法制局長官の吉國一郎さんを中心にまとめたものだが、この72年見解を理由にして集団的自衛権の行使ができるということは、論理的に矛盾している。

 林 結局、関係のないものでも、都合のよいところだけ寄せ集めて話をするから、今もって国民の8割の方が説明不十分ということになる。何となく欺瞞性を感じるということなんですね。

 藤井 説明が不十分ということは、説明が出来ていないということです。このような理由を基にして、これが憲法に違反していない集団的自衛権だという説明はとてもできない。

権力者は、謙虚でなければいけない

 林 今の政権を見ていて、政治そのものがやはり「権力」ですから、まず、謙虚でなければならないと思います。大衆迎合ではなく、しっかりと国民の声に耳を傾ける謙虚さを持ちながら、政治は進んで行かなくてはならない。先輩方もそのようにしてこられた。非常に厳しい中ではありますが、やっぱり今こそ私たち民主党は、しっかりと頑張らなければいけません。

 藤井 そうです。権力者は謙虚でなければいけない。これだけ国民が疑問を持っていることを強行するということが本当に許されるのかという謙虚さを持ってもらいたいんですが、今の状況で言うと参院でも強行しそうだね。その時に、日本国民は第2次世界大戦の惨禍をまた背負わなければならないかも知れない。そういうことになっちゃいけないから民主党は頑張りましょうよ。

 そして、何を大事にしなくてはならないかというと、やはり一に平和なんですね。これをずーっと言ってきたのが民主党です。

 岸内閣の時に国防の基本方針というものを作ったんですよ。閣議決定もしている正規のものです。国防は、一に国連。二に国民生活の安定。三に自衛隊。そして四に日米安保。日米安保条約をやった人が四番目と言っている。そしてその時の椎名悦三郎官房長官、私の直属上司だった人だが、「この順番が大事なんだ」と言ってた。平時に、何か必ずトラブルがある。それを最初に持って行くのは国連です。二番目には何よりも国内の国民生活が安定していないと、変なことになりやすい。三番目と四番目はいざという時には自衛隊に活躍してもらわなければならないし、日米安保も使わなければならない。これを民主党は文字通りやっていると思う。私は今の民主党は、(選挙に)負けた時のいろんな影響があるでしょうけど、自信を持つべきだと思います。

 私の友達は小学校6年生の時にずいぶん死んでいる。鬼籍に入っている。B29の爆撃でね。防空壕に入っていても、直撃弾を受けますとね、みんな死んじゃう。僕は防空壕に入っていた時に、もし生き延びられたらこんなことは二度とやっちゃいけないと思っていた。そしてこれまで生き延びています。いずれ私も鬼籍に入る。その時に、先に逝った友人たちに、「安倍総理なんかに負けたのか」と怒られちゃいます。私はそうならないように、「ちゃんと頑張ってきたんだぞ」と、彼らに堂々と言えることを民主党とともにやっていきたい。

 林 これだけ内閣支持率が下がり、本能的に国民が目覚めてきているのかなと。そこで私たちがその人たちと一緒に今の安保法案おかしいよねと、藤井先生も経験されたああいう辛い思いをまた私たちの次の世代が経験するようなことがあってはいけないんだということを、こう紡ぐように、つながっていき、それが大きな力になると、日本は変わるのじゃないか、守れるのではないかと思います。

 藤井 参院は変わると思います。過去に2004年と07年の参院選は野党が勝っているが、あの時は国民生活に直結する年金問題があった。安保法制の議論は年金問題と同じように、命の問題だ。もっと強烈な命の問題だ。ぜひ頑張りましょう。

 林 はい、民主党一丸となって頑張ります。今日はありがとうございました。

(プレス民主8月21日号より)


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