今年12月にパリで開催されるCOP21に向け、各国が新たな温暖化対策の目標値を示した。この世界的な問題にどう取り組むべきか、岡田克也代表がNPO法人「気候ネットワーク」代表の浅岡美恵氏に、日本の現状と課題を伺った。

 岡田 まず、地球温暖化対策の重要性についてお話しいただけますか。

気候ネットワーク代表・弁護士 浅岡 美恵(あさおか・みえ)氏

気候ネットワーク代表・弁護士 浅岡 美恵(あさおか・みえ)氏

 浅岡 温暖化は人間活動がもたらしたもので、将来世代の生存を脅かすものですが、既に私たち現在世代の問題でもあります。被害を最小化するために地球規模でのCO2などの大幅な排出削減が必要です。対策は急務で残り時間が少なくなってきています。

 岡田 将来世代に対する政治の責任の問題でもありますが、おっしゃるように、既に現世代にも影響が出ていますね。気温の変化で農作物の産地に変化があったり。

 浅岡 熱中症で亡くなる方も出ています。特に、雨の降り方が極端になり、亜熱帯型になって、被害も出ています。

 岡田 政府はよく、日本だけが努力しても仕方がない、アメリカや中国などが枠組みに入らなければだめだと主張します。その通りの側面もありますが、京都議定書や民主党政権の発想にはあった「日本が率先して枠組み作りに取り組む」という志は、残念ながら現政権下で失われつつあります。

 浅岡 温暖化はエネルギーの問題で、経済基盤としても欠かせないものです。しかし、CO2などの削減は待ったなしです。そうしたなか、世界の趨勢(すうせい)は低炭素の経済へと転換しつつありますが、日本は従来型から抜け出せていません。化石燃料に頼らない経済に早く転換することで、将来的に国際競争にも強くなります。

 岡田 国民に向けて政治が問題提起をしていく必要がありますね。

日本のエネルギー政策と新目標値の評価

岡田克也代表

岡田克也代表

 岡田 政府の温暖化目標について伺います。京都議定書以来の政府の取り組みをどう評価しますか。

 浅岡 政府はこれまで、実効性のある削減対策を導入せず、原子力頼みできました。景気の変動に左右され、排出削減が進まないところに原発事故が起きました。今回の2030年の目標設定でもその教訓を学ばず、元の原発依存に回帰しつつあります。

 岡田 政府の需給見通しは将来にわたり原子力発電も動かす前提で作られていますが、政府がそれをはっきり言わないことが問題を分かりにくくしている根本だと思うんですね。同時に、エネルギー需要が過大になっていますね。

 浅岡 政府は、今後も電力需要は増加するとの前提で、原発をベースロード電源としました。しかし、国民の多くは、温暖化を止めるとともに、原子力からも脱却していくべきと考えています。エネルギー消費を減らしていくことが、それを可能にします。

 岡田 省エネと再エネの2本柱になると思いますが、まず省エネの見込みが非常に少ない。

 浅岡 今回の温暖化目標の前提となったエネルギー需給の見通しは、需要は大きく、省エネを小さく見積もったものです。特に、重厚長大型産業では、省エネ量をほとんど見込んでいません。

 岡田 日本の産業面の省エネは非常に進んでいるという自己評価ですが、90年代以降は設備投資があまり活発でなかったこともあり、現状、他の先進国と比較して突出して良いという状況ではありませんね。まだ省エネが可能な下地はあります。

 浅岡 日本の産業界は「乾いた雑巾」(※1)と言い続けてきました。そのうちに、欧州の方が優位になりました。

 岡田 産業界でも今後、トップランナー方式のように一番省エネ性能の良いものに設備を合わせていけばどうなるか、そういった議論はなかったように思います。

 浅岡 どの業種も、事業所ごとに見るとエネルギー効率はいろいろです。設備更新の時期等に省エネ投資を誘導する政策をとって、全体をトップレベルまで引き上げていくことで、省エネが進み、省エネに関わる産業も活性化します。

 岡田 省エネ投資、更新投資は成長戦略でも非常に期待される部分ですが、そういう視点がなぜか欠けています。再生可能エネルギーの取り組みについてはどう評価されますか。

 浅岡 先進国だけでなくいまや途上国も、高い再エネ目標を掲げて取り組んでいます。今回の日本の目標はとても小さく、残念です。特に風力が小さい。電力会社の電力系統への接続を制限する動きが先行していることも問題です。

 岡田 天候に左右されるなどの再エネの不安定性は、欧州ではどのように克服しているのでしょうか。

 浅岡 電力自由化のもと、系統の広域運用(※2)はもちろん、気象予測やIT技術を駆使して需給管理を行い、再エネの最優先接続を実現しています。送電網ではある意味島国と言われるスペインでも同様です。買い取り制度で導入が進み、再エネコストも急激に下がっています。

 岡田 新エネルギーの供給の安定性、価格も下がっていることを、国民にも分かりやすく伝えることが必要ですね。

 浅岡 省エネ、再エネはエネルギー自給の面からも重要です。化石燃料の輸入を将来、継続的に削減できることは、経済面でも安全保障でも大きなメリットです。

 岡田 今回、2013年を基準年として26%の温室効果ガス削減という新たな目標値を政府が出しましたが、この妥当性については。

 浅岡 長期目標は整合的でなく、2030年の目標として意欲的とは言えません。基準年を従来の1990年から最も多かった2013年に変えて見栄えをよくしようとしたものの、国際社会から厳しい批判を受けました。温暖化対策を理由に原子力比率を回復させ、他方で石炭火力を温存しており、温暖化対策に逆行するものです。

 岡田 民主党は、新増設はしない、2030年代に原発ゼロを目指す、そのためにすべての政策資源を投入するという政権与党時の政策方針を堅持しています。しかし政府は違う考えで、明確には言いませんが、どこかで新設、あるいは40年運転規制を大幅に伸ばす考えだと思います。

 浅岡 今回は、民主党の政権時に、エネルギー・環境会議という枠組みで国民的な議論が行われたのと対照的です。結論ありきの審議会で、結果として原発回帰が鮮明になりました。今回の原子力比率は、40年廃炉と新規制のもとでは、実現不可能です。再来年のエネルギー基本計画改定に向けての議論で、新増設を打ち出してくるでしょう。

 岡田 まず、2050年までに80%削減という先進国間で国際的に確認された数字と、今回の政府目標の数字は整合性が取れているのか。そのレベルに届かないのは明らかです。

 浅岡 科学の警告に基づき、平均気温の上昇を産業革命前から2度に止めることが、国際交渉の大きな目標です。2度でもその影響は深刻です。気温の上昇は世界全体の産業革命以来の累積排出量に比例しており、2度という目標まで、今の世界の排出量の30年分程度しか残りがありません。削減の先送りは、3度、4度も気温が上昇した地球をもたらすのです。

 岡田 民主党の考え方をもう少しご説明すると、再生可能エネルギー30%以上、温室効果ガスの30%削減という目標を、2030年代に原発ゼロという方針と整合性を持って主張しています。その前提が先ほどの省エネの話です。

 浅岡 高い目標とそれを実現する政策が不可欠です。特に、発電や産業の大口事業者が日本の排出の6割以上を占めており、その確実な削減のための政策が必要です。省エネと、国内排出量取引制度、炭素税と再生可能エネルギーによる電力の買い取り制度は、政策の3本柱です。再エネでは民主党政権時に買い取り制度を実現いただき、大きな成果を上げました。見直しも必要ですが、再エネ拡大のための見直しでなければなりません。

温暖化問題にNGOが果たしていく役割

 岡田 12月にCOP21パリ会議(※3)が開催されますが、まず米国、中国を含む全体的な枠組み作りについて、浅岡さんのお考えは。

 浅岡 先進国だけでなく、途上国も、その実情に応じた削減目標を持つことは重要です。これまでのところ、今回は、米・中が交渉を前向きに進める役割を担っているのが特徴です。国内の経済成長にも必要と認識されているからだと思います。これに対し、日本は、各国の目標引き上げの足を引っ張っている状態です。交渉を前に進める役割を果たすには、まず、目標を高くし、石炭火力規制など国内での温暖化対策を実施することが必要です。

 岡田 温暖化の問題で、NGOの役割の重要性はさらに高まっていますが、浅岡さんご自身はどのような役割を果たすべきだとお考えですか。

 浅岡 今年6月、COP21を前に、世界76の国と地域で共通の討論型世論調査が実施されました。他の国では日本よりも、温暖化問題を深刻な問題ととらえ、温暖化対策は生活の質を高めると考える人がとても多いことが分かりました。日本では逆の方向での情報が多いことを示唆しています。温暖化は深刻で、その対策は私たち生活の質を高めることを、もっと発信していきたいと思っています。

 岡田 核のような目の前のリスクではないが、より確実に迫ってくるリスクだということですね。

 浅岡  温暖化は、世界のどこにも逃げ場がなくなるという問題です。しかし、現在の私たちの経済や生活の仕組みを変えることで、破局を回避することもできます。人類の英知が問われているものです。そこで、科学の示唆をもとに、世界の英知を結集しようと、国際交渉も続けられているものです。

 岡田 成長戦略にとって妨げであるかのような考え方もありますが、そうではなく、省エネルギーも再生可能エネルギーも日本の成長戦略の柱だという認識ですよね。

 浅岡 温暖化対策の経済への影響は、中長期的視点から見ることが重要です。再エネはエネルギーの創造ですから、エネルギー自給を高め、成長戦略の柱とすべきものです。省エネも、今後の国際競争力に不可欠です。欧州が率先して取り組んでいるのは、そのためです。日本でも、こうした温暖化対策の意義を国民的に広く共有することが大事だと思います。

 岡田 今日はどうもありがとうございました。

  • (※1)これ以上省エネできる余地がないことの例え
  • (※2)電気事業者間の電力の融通をより積極的に行うこと
  • (※3)COP21=国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議

(プレス民主8月21日号より)


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