衆院議長から諮問を受けた有識者による衆院選挙制度調査会の答申が示され、各政党に考え方をまとめるよう議長から要請が出されるなど、衆院選挙制度改革への動きが若干見え始めた。議員定数削減実現をかけ、当時の首相であり、第1党党首として党首討論に臨んだ野田佳彦最高顧問に緒方林太郎広報委員長代理が話を聞いた。

議員定数削減かけた党首討論

 緒方 2012年11月14日の党首討論、あそこでなぜあれほど強く議員定数削減について当時の自民党の安倍総裁に求めたのか。その点からお聞かせください。

野田佳彦最高顧問

野田佳彦最高顧問

 野田 議員定数削減に関する政党間協議を行ってきて、なかなかまとまらない状況が続いていて、少なくとも第1党と第2党が「まとめる」ことを前提に物事を進めないと結論が出ないと強く思っていました。そんななか、党首討論は最後のチャンスでした。社会保障と税の一体改革で国民に消費税増税というご負担をお願いする以上、政治家も自ら身を切る覚悟を示して議員定数削減を決定する。若手も中堅もほとんどの民主党議員が同じ思いでした。その声を代弁して一挙に実現にもっていく、第2党である自民党に約束させる。こう着状態を打開するにはこの場しかないという思いで、党首討論で取り上げました。

 緒方 強い思いですね。

 野田 もちろんです。落選してまだ国会に戻ってきていないベテランの前議員に先日言われました。「社会保障と税の一体改革で消費税増税を打ち出したことは国民には不人気だったかもしれないが、未来、次世代のことを考えて民主党は決断した。あわせて議員定数削減を自民党に約束させた。自分は負けてしまったが名誉ある敗北だった」と。この発言にあるように、民主党議員の思いを受けて党首討論に臨んだつもりです。

1票の格差の是正と、地域の声が届く政治とのバランス

緒方林太郎広報委員長代理

緒方林太郎広報委員長代理

 緒方 定数是正・定数削減に関して制度の中身についてお聞きします。定数是正を徹底すると過疎地域が厳しい状況に追い込まれるという懸念があります。夏の参院選でも徳島と高知、鳥取と島根が合区されますが、県をまたいでの合区となると「地域の声が国政に届かなくなるのではないか」との声があります。

 野田 衆参両院あるので、どちらかの院は過疎地域の声を聞くために、1票の格差だけを考慮したものではないやり方もあるのではないかと思います。ただ、懸案の衆院選挙制度改革は基本的には1票の格差の是正、2倍を超えてしまった不平等状況を打開するため合理的な判断に基づく衆院選挙制度改革を行うということだと思います。

 緒方 少し具体的に伺います。地元の千葉4区は前回選挙から船橋市の一部が野田最高顧問の選挙区から外れました。

 野田 7万人分の有権者が前回の総選挙から千葉13区に移りました。

 緒方 となると野田最高顧問の選挙区は船橋市議会議員よりも狭い?

 野田 狭いですね。

 緒方 今後、定数是正を重ねていくと、東京など3大都市圏では、衆院議員の選挙区が市議会議員や区議会議員のそれよりも狭いというところがいくつも出てきます。人口90万人近い世田谷区で衆院議員が1人というわけにはいかないということは理解しますが、衆院議員、区議、市議、都道府県議、首長等さまざまあるなか、一番選挙区が狭いのは国政政治家だとなると、代表制という観点から違和感を持たれませんか?

 野田 前回の衆院選、自分の地元選挙区で7万人分の皆さんの票が他の選挙区に移ってしまって、その後に県議選もありましたから緒方議員がおっしゃる違和感は私自身も覚えました。実を言えば、手堅い地域がもっていかれましたので残念な点もいっぱいありました。しかしそれを言っているときりがなく、中選挙区の方がいいという別の議論にもなりかねません。現在、小選挙区比例代表並立制を基本とする以上、その存続を図る限り、行政区を切るのはやむを得ないと思います。

自民党は約束違反

 緒方 やっと答申が出ましたが、自民党は現在多くの議席を持っていることもあって今国会で結論を出すのかどうか分からない状況にあります。選挙制度改革の議論を自民党が足を引っ張っているようにも見えます。

 野田 自民党は約束違反です。

 党首討論で党首間で交わした約束です。そして12年11月14日に党首討論を行い、16日に衆院を解散するまでの間に、翌年の通常国会が終わるまでに1票の格差を是正しながら定数削減する、選挙制度改革の成論を得るという覚書も交わしています。つまり13年の通常国会が終わるまでには結論を出さなければいけなかった。それが守られていない現状について、安倍総理に厳しく問わなければなりません。

 緒方 違憲状態を続けているといえますね。

 野田 安保法制も違憲だという専門家がたくさんいます。野党がまとまって憲法53条に基づき求めた臨時国会の開会も安倍内閣は無視しました。選挙制度についても違憲状態であるという指摘を長年放置してきました。もう冗談ではないよという思いです。これ以上は放置してはいけません。政党間協議でらちがあかないので、当時の伊吹衆院議長のもとで第三者機関に委ねたのです。それは安倍総理主導だったわけです。自分たちが主導したのですから、まず自民党がその答申に対してどうするかの結論を早く出すのが先。自民党内で「2月下旬に発表される簡易国勢調査の速報値発表を待って議論を本格化させる」などという人がいると聞きますが、今さらちゃぶ台返しをするなと言いたいです。

 緒方 安倍総理はこの問題について答弁は決まっていて、「議会の皆さんにお決めいただくこと、政党間でよく議論してください」と言います。自分は行政府の人間なのでと引いた姿勢で必ず逃げています。

 野田 当時の政権党と野党第1党の党首としての約束ですから、議会の皆さんうんぬんではなく、安倍総理自身が責任を持ってまとめなければならない立場です。最高裁が違憲状態との指摘を続けているのは憲法に差し障りがあるという危惧(きぐ)を持っているから。自民党総裁は感度良くこれに応えなければいけないということです。

衆院解散はむしろ遅すぎた

 緒方 最後に嫌な質問かもしれませんが、伺います。11月16日の解散は早すぎたのではないかという思いをお持ちになりませんか。「もう1回予算編成をして予算を通して13年の通常国会が終わってから解散すれば」という声がありますが。

 野田 さまざまな「たら、れば」があるのは仕方がないのですが、私は遅すぎたと思っています。私が思い描いていたのは8月10日に社会保障と税の一体改革の法律が通って、なるべく早い段階で解散をと考えていました。しかし外交案件の発生によって解散が飛んだのです。本当は定数削減をめぐる党首討論は谷垣さんとの勝負でした。 とにかく1票の格差について違憲状態のまま放置するわけにはいきません。自民党に前向きな対応を求めます。逃げないでいただきたい。

(プレス民主368号 2月5日号より)

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