フリーキャスターの小宮悦子氏を招き、報道の立場から見た日本の民主主義と民放メディアの行方、安倍政権をどうみるか、民主党の立ち位置などを、岡田代表が語り合った(写真は小宮悦子氏)

信念に基づく自由な発信が報道番組を変えた

岡田 克也(おかだ・かつや)民主党代表

岡田 克也(おかだ・かつや)民主党代表

 岡田 小宮さんというと「ニュースステーション」の印象が強いですね。新しい報道番組の、最初の形を作ったと言えます。

 小宮 あれは、ドラマや歌番組、バラエティなどを手がけてきたスタッフと報道局が一緒になって、それまで報道番組が使っていない手法や演出を用いて制作しました。ニュースの素人たちが作ったとも言えます。みんな信念を持って、明るく自由にやっていました。多少の圧力はありましたよ。勝手なことも言わせていただいて怒られもしましたが、権力をチェックするのはメディアの役割なので、自粛しすぎるのもどうかと思います。

 岡田 報道専門ではない多様なスタッフだからできた工夫というのは、具体的にはどのような。

 小宮 ニュースに音楽を付けた最初の番組です。国会議員の会見を放送するときも、表情に注目し、言葉以外の部分まで伝えることもしました。模型や政治家の人形を作ったり。ああいういい意味で揶揄(やゆ)する表現は今は難しいかもしれませんね。

 岡田 最近、キャスターの交代も続きますね。表現をしていくうえで少し窮屈な世の中になったと感じますか。

 小宮 かなり窮屈ではないですか。今なら「ニュースステーション」はたちまち誰もいなくなっちゃうんじゃないかしら(笑)。民放は電波を使わせてもらっている私企業なので、気を遣う状況もあるでしょうが、私は少々荒っぽい方が出てきたらいいと思います。昨今は過剰適応社会のようになって、何かあるとすぐ大変な批判を受けるでしょう。もう少し寛容な社会であればと思います。

 岡田 EUや米国でも、少数者を強く排除するような不寛容な素地ができて、気になります。日本にもそういうものがあると思います。

 小宮 米国が世界の警察であることをやめ、突出したリーダーがいない社会を生きる、そういう時代だということです。

 岡田 米国の力が低下している時代だからこそ、それを支えるのが日本の役割だ、集団的自衛権の行使だというのが安倍流の考え方です。

 小宮 でもそこには大きなリスクが伴う。そのリスクに関して政府からの説明はなされていませんね。

 岡田 日本がやると言えば米国はウェルカムでしょうが、日本としてやるべきかどうか。この点は相当考えていかなければなりません。

平和憲法を守る国こそ「普通の国」

 岡田 安保法制の議論はどう見られましたか。

 小宮 一番の問題は、国民の多数が説明不十分だと感じ、実際に国会前でも大規模な運動が起きているなかで採決を強行したことでしょうね。

 岡田 あの時はデモなどしたことがない皆さんも多く国会を囲みました。これは新しい動きだったと思います。

 小宮 民主党は今後、白紙に戻すことを目指していくわけですか。

 岡田 維新の党と協力して白紙に戻す法案を出します。領域警備法や周辺事態法とPKO法の改正など、われわれの考える日本の国民を守るための法制や国際貢献の法制についても同時に提案していきます。

 小宮 今国会は非常に重要な国会になるわけですね。法治国家が人治国家に変わってしまうかどうかの境目ですね。

 岡田 特に平和主義についてです。安倍総理は夏の参院選挙で3分の2の議席獲得を目指すと明言していますが、当然、9条改正も念頭に置いてのことです。昨年強行採決で成立した安保法制では集団的自衛権の行使は限定的ですが、それを無限定に行使できる国にしたいという考えです。

 小宮 いわゆる「普通の国」ですね。

 岡田 もちろん国連憲章違反ではないですよ。しかし民主党は、70年前の戦争の反省に立って平和憲法を守る、わが国は国際紛争を武力行使では解決しない姿勢を維持すべきだと思っています。

 小宮 普通でない国だと言われるのなら、われわれこそが普通だとアピールしていくのが日本の立場だと私も考えます。

 岡田 安倍総理は国会で議論の機会をなるべく作らないように封じてくると思いますが、その中でも議論を展開し、国民にも関心を持ってもらうようにしていきます。

 小宮 国会の外で国民も見ています。その人たちに届く言葉でお話しいただければと思います。必ずしも強い言葉が人の心に届くわけではありません。静かな言葉でも琴線にふれる言葉を。民主党議員にはそこをぜひ探っていただきたい。

 岡田 国民の皆さんに届くよう、徹底的に発信していきます。

働き方の改革で女性が力を活かせる社会へ

 岡田 女性の活躍に関して、安倍総理は国家公務員の女性比率3割など数字を掲げていますが、どう評価しますか。

 小宮 男女雇用機会均等法が施行された86年頃からずっと言われていますね。役に就いて頑張っている女性もたくさんいらっしゃるけれど、相対的に見ると事態は進展していないと思います。要因は何でしょう。

 岡田 日本人の働き方、長時間労働の問題です。女性が男性と競い合おうとすれば、犠牲を払わないといけない状況に直面することが多い。安倍総理は、介護離職ゼロや希望出生率1・8の実現にはハードの施設を整えると言います。もちろんそれも重要ですが、働き方そのものを限られた時間で効率的に働くという方向に変えていかないと、仕事と家庭、介護の両立はできません。民主党は長時間労働の抑制法案を提出します。

 小宮 私もいろいろ犠牲にしました。女性が大半を担ってきた子育て、介護をそのままにして、さらに活躍もしろとは何人分頑張れと言うのか、非常に酷な話だと思っています。社会でシェアする仕組みをつくらなければ厳しいですよね。

 岡田 党の共生社会創造本部でその点の掘り下げを進めています。①子ども②若者③女性――にスポットを当て、安倍政権にはない公正な分配に基づき格差是正を実現し、持続的経済成長の在り方を示します。

 小宮 私が95年頃に取材をしたノルウェーでは、男性も女性も午後3時には仕事が終わり、帰宅して皆でご飯を食べてから、子どもたちのスポーツの応援に行くといった生活ができていました。小さい国だからできる、と言われますが、何かヒントはあると思いますよね。

 岡田 最後に、民主党へのご意見などを。

 小宮 頑張って議員の数を増やし、政権を取り戻すことが当然の目標だと思いますが、前回の政権で足りなかった部分の検証はできていらっしゃるんでしょうか。

 岡田 反省は必要ですが検証の段階はもう終わりだと思っています。党としてこれから何をやるかが重要だと考えています。

 小宮 そうですね、ただ有権者が知りたいのはやはりそういうことなんですよ。あの時の失望が安倍1強に向かわせたという見方もあります。次はそれを繰り返さないという準備ができていないと、国民の信頼は戻らないし、受け皿にはなり得ないと思うんですね。

 岡田 民主党が何をしたいのか、政権時代の反省を踏まえつつ、しっかりとした提案をしていきます。今日はありがとうございました。

(プレス民主368号 2月5日号より)

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