ディートリッヒの葛藤と強さ 表現したい 女優・和央ようかさん
挑発的な態度と、妖しい魅力で、世界中の目を釘付けにしたドイツ人女優マレーネ・ディートリッヒ。第二次世界大戦の最中、祖国ドイツのために反ナチスを掲げ、多くの人々の心を揺り動かした彼女の人生を、宝塚歌劇団の元宙組トップスターで、女優の和央ようかさんが、今月29日に開幕する舞台「ディートリッヒ」で演じます。2010年の初演に続く、再演ですが、演出や音楽も一新されるそうです。和央さんの再演に向けた心境を小町さんが聞きました。
脚本、音楽、キャスト一新 「初演気分」
再演の話が来たとき、どう思いましたか。
今の時代、新しいものばかりを求められて次々と変わっていく中で、再演の話がきたときは素直にうれしかったですね。再演の話をいただけるということは、何か初演のときに意味があったんだと思えるので。日本で作ったオリジナルのミュージカルなので、前回、少ない日数の中で慌てて作ったものを、もう一回練りなおせる機会をいただけたというのは、本当に貴重ですし、ありがたいなと思っています。
前回、「こういう演じ方があったな」と感じていた点を、もう一度やれることになるのですね。
そうですね。ただ、今回は脚本も音楽、キャストも8割ぐらい変わっているので、初演気分で稽古をしています。その中で、2年前に時間をかけて、ディートリッヒという女性の思いを考えて過ごした期間が、確実に私の中に生きているんじゃないかと思います。その部分を温めながら、今回の脚本に添って表現できたらと思っています。
現場の雰囲気はどうですか?
演出家の吉川徹さんがとても熱いので、ものすごく勢いのある、前向きな稽古場ですね。吉川さんが、共演者の皆さんに「こういう風なことをして欲しい」と例えているのが、ものすごくリアルで分かりやすいので、ほかの人に言っているのを見て、「熱いな」と思うのと同時に、「分かりやすいな」と思いながら過ごしています。
ディートリッヒについてはどんな風に例えているのですか?
吉川さんは、私に関してはそんなに言わないかもしれない。結構フリーにさせていただいています。それぞれのキャラクターを、共演者の皆さんが、エネルギッシュに具体的に作り上げて、それが全部自分に向かってくるので、そこに誠実にストレートに対していたら、おのずとディートリッヒはディートリッヒらしく生きていけるんじゃないかなと思います。
ディートリッヒのことは、どういう女性だと捉えていますか?
実は、主演するまでよく知りませんでした。もちろん、写真などで見て、神秘的で人間離れしていて、きれいなベールかかったような女優さんで、近寄りがたいような印象はありました。2010年に主演したときに、初めて彼女と故郷ドイツとの問題や、あの時代背景で反ナチの思想を貫いたことを知り、ものすごく人間らしかったんだ、いろいろな葛藤をしながら生きていたんだ、ということを知りました。とても力強くて、聡明な女性に巡り合えたような気がしました。
和央さんに似ているところがあるのでは?
たぶん似ていると思います。私はあんなに素敵に生きてはいないですけれど、ボーッとしている割には、自分の思っていることを貫いて生きている。バカだなあと思っても、考えを貫いたり、曲がっていることは嫌いだったり、ぶれないで生きていると思います。頭を打ったり、けっこういろいろありますけれど、でも、そういうところは似ているような気がします。憧れますね。
母への感謝の気持ち 歌に込めて
今回の作品では、ディートリッヒと母、娘との家族関係が印象的に描かれるんですよね。
前回よりも、家族関係についてはもっと深く描かれていると思います。祖国を離れて生きて、残した国に母親がいて、自分のいる国と戦争をしている国だとか、独裁的な国になっているだとか、私たちには想像もつかない、極限のところで生きている親子なので、普通よりもつながり方が違うんだろうなと思うんですよね。
母親が危険な目にあうかもしれなくても、ディートリッヒは、反ナチスを貫きますよね。
そうですね。誤解もされたけれど、彼女はドイツのことを一番思っている。だからこそ、米軍の中に入って兵士を慰問しながらも、ヨーロッパに行ったときは、ドイツ語で「リリー・マルレーン」を歌ったり、ドイツ兵に向かってラジオから語りかけたりしています。一番愛しているのは自分の祖国で、それを貫くのが苦しい、という生き方はすごく強いですね。
その「強さ」がディートリッヒの魅力ですね。
強さって、すごく弱い自分がいて、そこと戦ってこそ強いんだと思うんです。弱さと強さ、二つがでないと、スーパーマンみたいになってしまうから、もろい部分を自分で鼓舞したり、人と出会って助けられたりしている。それをうまく出せたら、ディートリッヒにすごく人間味が出て、素敵なんじゃないかなと思って、演じています。
家族がディートリッヒの支えになっていますが、和央さんも宝塚のトップ時代、家族に支えられた経験がありますか?
そうですね。母は、大変なときはさりげなく助けてくれますし、支えてもらって申し訳ないなと思います。周りから見ると、子どもが頑張って、舞台をやっていて、それを見に来て、「お母さん、いいね」みたいに思われるかもしれないけど、すごく心配かけていると思います。だから、ディートリッヒが2幕でお母さんが亡くなった後、一人で歌う場面があるのですが、母への思いとだぶりますね。私の母はまだ生きていますが、「ごめんなさい」って思うから。心配かけているので。
黒燕尾にドレス…華やかなドレスも見どころ
今回の舞台の見所の一つに、ディートリッヒの衣装もありますね。
前回の舞台と違って、華やかな衣装が多いですね。昔からよく着ている黒燕尾とドレスが劇を華やかにしてくれると思います。
男役だった和央さんならば、黒燕尾はもちろんかっこよく着こなすのでしょうね! 逆にドレスを着ていて、戸惑うことがあったりしますか?
あります、あります。ダメです、ドレスは。芝居の中でドレスを着たことがほとんどないので、ウキウキする反面、
やはり、ドレスだと気が抜けないのですか?
いや、なんでも気が抜けないです。「燕尾は着れるでしょ」と思われている部分がありますが、気は楽ではあるけど、衣装合わせをしているときはやっぱり緊張しますね。自分のやってきたそのラインをちゃんと出さないと、と思うので。ドレスについては、やっぱり私は、立ち居振る舞いが男っぽいですから。今回の舞台は、なよっとした女性の役ではないので、スタイリッシュにシャープな感じでいいんですけど、ちょっとドキドキしますよね。いろんなラインが出ると思うとね。
これから、年末にかけて、この舞台に、ダンス公演、イスラエルでの公演と目白押しですね。
ちょっと重なりすぎたなと。本来は、一つだけのことをやりたい人間なので、難しいなとは思いますが、大変なことをあまり大変だとは思わないんです。がんばるのは当たり前で、自分がすごく大変とか、プレッシャーがあるとか、思うのが嫌いなんです。「みんな一緒、みんな一緒」という感覚でいたいとずっと思っているので、そういう点では、自分の精神をラクにしようという考えが常にあるかも。「大変だ」と思っていると、その精神が
己を知るために、体重計に乗る
ところで、これだけはぜひ伺っておきたいのですが、そのスリムな体型を保つ秘訣は?
そんなの私が教えて欲しいですよ! 私はすごく食べるし、炭水化物が大好きなので、今回はドレスもあるし緊張します。ただ、異常に体重計に乗るんです。一日に何度も。起きた瞬間から。己を知るために。
自己管理がすごいですね。
絶対に体重計に乗りたくない日もあるんですよね。それは太っているからなんです。食べるときは食べてしまうので、食べる時に、「こんなの食べても太らないや」という思い込みをするんですよ。「絶対太らない!」と。そうすると、意外と太らなかったりするんです。
ホントですか!?
体に指令を出しているのは脳ですから、思い込ませるんです。ただ、その思い込みの脳をだます方法は、1日は持つけど、自分の経験上、3日は持たない(笑)。
ハードスケジュールで、しっかり食べないとやせてしまうこともあるのでは。
やせることはないですが、あまり稽古の現場では食べないんです。食べる気になれなくて。慌てて食べるのだったら食べなくていいとか、集中しているときはいらない、というタイプ。その代わり、終わった後の自分のご褒美みたいに、遅くにがーっと食べちゃうんです。けっこう極端ですね。
ご自分で作るのですか?
作れません・・・(苦笑)。外で食べるか買って帰るかですけど、でもその時間がリセットタイムで好きです。
美容でこだわっていることは?
加圧トレーニングは基本的にやっていますけど、美容は自慢できません。本当にメイクしたまま平気で寝てしまいがち。最近はよくないなと思うから、クレンジングシートとかを身近において、とりあえずメイクは落そうと思っていますけど、基本的に、化粧水とかがなくても生きていける人間だというぐらい、本当に肌を甘やかさないんですよ。ただ、己を知ろうとは思っています。自分の体重もそうだし、体型もそうだし、顔もそうだし、分かろうって。目を背けないで生きていこうと。
最後に大手小町の読者にメッセージを!
皆さんも、いろいろな葛藤があって、悩みながら、何かと戦って生きていると思います。私は、今回ディートリッヒを演じることによって、勇気と力をもらいました。公演を見終わった後、悩みに立ち向かうエネルギーが湧いていただけたらいいなと思いますので、ぜひ見に来てくださいね!
和央ようか主演舞台「ディートリッヒ」公式HPはこちら
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プロフィール
和央ようか(わお・ようか)1988年宝塚歌劇団入団。2000年宙組トップスターに就任し、同年『BOXMAN』で菊田一夫演劇賞優秀賞を受賞。『炎にくちづけを』では音楽賞を受賞。2006年『NEVER SAY GOODBYE』で退団。退団後はミュージカル、映画、テレビドラマなどで主演するほか、コンサートなど幅広く活動している。今年6月に初の海外ライブをシンガポールで開催。10月〜11月は『ディートリッヒ』を再演するほか、12月には蜷川幸雄演出『トロイアの女たち』に出演、12月下旬〜1月上旬のイスラエル公演を控えている。
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