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【東電の復興本社】機能、人材決めるのは本県(11月7日)

 東京電力が福島に復興本社を置くことにした。事情はあったが、とっても遅い。現在すでに3500人が福島の事故処理関連に携わっているが、それを4000人以上にする。副社長を復興本社のトップに据え、全社員3万8000人を業務として、県内の被災者生活支援にかりだすという。
 こういうことを去年の3月中、大震災直後にやってほしかった。しかも4000人ではなく1万人規模で。初めから事故後被災地で東電の顔が見えないことは大きな禍根を残す原因になると懸念する声が大きかった。だからマスコミ、特にテレビの報道ぶりにも影響して、ようやく顔を見せた東電トップに対する避難民の反発が「映像」になりやすい過激なものが強調されすぎた。
 そうした弊害もあり、被害民全体の真実のもっとはるかに複雑な苦悶[くもん]や反応と、実際に表面に出てくるニュースになりやすい先鋭的なクレームのずれが大きくなってしまった。
 そのせいで現実には、時間をかけることによってほとぼりを冷ますという手だてが先行し、現地対応はこのようにとんでもなく遅れてしまった。東電社員というだけで街に出てにこにこしてもいけないという雰囲気は、現地での地道な被災事情の把握という最も大事な仕事を阻害した。
 復興支援に効率よく取り組むという優秀で若い社員の真摯[しんし]な行動と、東電の意思決定者たちの責任というシステム問題を冷静に区別しない時間が無為に過ぎてしまい、結果的に一番損をしたのは目立ちもせず、大声で文句も言わず、ひたすら自分で我慢し、耐えてきた被災者たちの最大多数の人々ということになってしまった。
 かくなるうえは、復興本社がなすべき仕事は何なのか、精査してその際どういう人材が必要なのかを自問自答するのは、被災地たる福島県以外にないであろう。そうすれば、自[おの]ずと現地事情に詳しい、真に復興をわがこととして考える人材が圧倒的に必要に決まっているではないか。
 しかも県内に原発廃炉の研究拠点もつくることが確定する。廃炉は今後現状で300基以上、将来的には500基以上おそらく100年以上にわたって必要となろう。今現在、世界で全く確立していない技術の開発事業である。研究者以外にそれを支える大学での教育や基礎研究から高専や専門高校創設など、幅広い裾野の形成が必要だ。それはさらに世界中に今後建設される世界中の電力供給事業への人材供給にも直結する。
 これを将来にわたっての県内最大雇用の口として利用しない手はない。チャンスだ。県自体の人口減少対策として活用すべきは当然である。そうした県の将来像を実現するには予算と権限を持つ中央でのロビー活動が要だ。県と市町村合わせて200~300人程度の東京常駐が必須だろう。
(前毎日新聞社主筆、福島市出身)

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