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現場の実態に合った規制(12月23日)

 大きな地震が12月7日にあって、福島県内の原発を心配された方が多かったと思う。廃炉工程においても、常にその状況に応じた防災計画が必要だ。原子力規制委員会は地域の防災計画に資するため、事故時の放射性物質拡散の予測計算を10月に発表した。入力ミスがたびたび見つかり、最終版を今月13日に再発表した。
 ミスはともかく、基本的な課題は残っている。放射性物質が風によって広がりながら、一方向に円筒状に移動していく-という簡便なプルームモデルだ。煙が煙突から上昇し、風に流されて横一方向に円筒状にたなびいていく形を仮定して計算をする。計算機が遅かった時代の知恵だ。
 ただし、地形の形状効果は入らない。平たんな大陸であれば、このモデルは有効だ。旧ソ連ウラル地方の事故では、放射性物質が高さ1~2キロの幅で、平らな地帯を300キロにわたって北東に直進した。東京電力福島第一原発事故では異なる。放射性物質は阿武隈山地の山間部を北西に流入し、中通りに入ってからは奥羽山脈に沿って南西に進んだ。
 10年程前に私は安全規制の在り方について「日本では技術の都合から決めた規制と、社会から期待される規制が一致していない」と主張した。当時でも米国では、簡便なプルームモデルが原則だったが、地形効果が入る最新気象評価モデルの採用も付則で認めていた。実態に合った防災計画でないと、住民の理解は得られない。
 福島第一原発で使用開始を待つ多核種除去装置(ALPS)も同様だ。現在の除去装置ではセシウムしか除去できず、高濃度のストロンチウムなどを含んだ汚染水20万トン以上がタンク約800基に貯蔵されている。地元では、これから高濃度汚染水タンクがどれほど作られるのか、と心配している。
 ALPSはトリチウム以外の全ての放射性核種を検出限界以下まで除去できる。発電所全体の安全管理が容易になり、地震や津波が今後起きても対応しやすい。東電は10月からの運転を期待していたようだ。しかし、最終的に出る高い放射能を含んだ残りかすをコンパクトに保管するポリエチレン容器に関わる安全性について、原子力規制委員会が各種の試験や付帯設備の追加を要求しており、いまだに動いていない。
 確かに安全試験は重要だ。「もんじゅ」では、燃料を運ぶ通常の作業ですら事故があった。ただ、それを追求するあまり、廃炉工事に伴う発電所全体のリスクが増え続けてはいけない。廃炉といっても、プラントは汚染水を日々吐き出しており、受け皿となるタンク群で漏[ろう]洩[えい]を起こしてはならない。
 現在のプラント全体の状況を見ると、ALPSの運転は重要度の高い対策の一つだ。部分的に最善を尽くすあまり、プラント全体の最善がおろそかになってはいけない。原子力安全委員会から原子力規制委員会に制度が変わり、国民は規制の質の変化を期待している。現場全体を総合的に見た、戦略的でタイムリーな規制を期待する。(会津大学長 角山茂章)

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