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VOL.28 精神科各職種から見た"チーム医療"<後編> ~現場の思いとさまざまな提案~

精神科におけるチーム医療について、現場の医療従事者たちはどう考えているのか。若手から管理者、そして院内勤務から訪問看護まで、さまざまな現場の声をご紹介する。

<医師> 岡部伸幸

<医師> 岡部伸幸
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 精神神経病態学教室 助教

1978年に東京大学医学部を卒業。その後、東京大学医学部附属病院精神神経科に勤務し、1992年より帝京大学医学部精神神経科へ。2000年には同精神神経科病棟医長となり、5年後、帝京大学医学部精神神経科教授に就任した。他にも日本精神神経学会評議員、SST普及協会運営委員、心理教育・家族教室ネットワーク幹事などを兼任。著作に『統合失調症へのアプローチ』(星和書店 2006年)ほかがある。


医師として、チームの中でポジションをどう変えられるか

大学病院ならではのリエゾン

リエゾンを専門としています。大学病院は私立病院と違い、上層からのトップダウンで動く形態ではありません。トップダウンの利く私立病院は各科に共通のルールが多く、チーム医療を進めやすい面があります。しかし大学病院は各科が自立して高度先進医療に携わっていますので、チーム医療にはそれに合った工夫が必要だと感じています。チーム医療をスムースに進められれば、各科のメンツやプライドを大きく活かすことができます。

他科では他科のルールに従う

まず、他科に入院中の患者さんが精神科に紹介されてくるときは、精神科受診のニーズがどこから出ているかを把握します。患者さん自身が「精神科を受診したい」と訴えることはまずありません。ニーズは周囲の困惑や心配から発生します。そのためには患者さんだけでなく、家族、担当看護師、科の医師など、病棟全体から情報を集めて回っています。

情報収集する際に気をつけていることは、各科のルールに従うことです。それぞれの科に指示・伝達のルールがあります。「うちの科ではこう言えばわかってくれる」と言っても通用しません。

ダウンポジションをとれるかどうか

チーム医療において、医師として自分のポジションをどこに置けば円滑に進むか、常に意識しています。場面に応じて、自分のポジションを上げたり下げたりできるかどうか、です。医師は常にチームリーダーであることが求められますので、ダウンポジションはとりづらいことがあるかも知れません。ですが他科のルールを教えてもらおうと思ったら、「教えてくれないとわからない」と言っているだけでは誰も教えてくれません。それよりはダウンポジションをとって「申し訳ありませんが、精神科でやっていることとは違うようですので、○○についてはどうなのですか?」と低い位置から具体的に聞いたほうが教えてもらえます。逆に、他科の看護スタッフが不安を抱いているときは自分のポジションを上げて、「精神科の専門家として言わせていただくと、こうなっていくことが予想されます」と言ったほうが、相手は安心できます。

看護師との連携

看護師と連携するときは、ただひたすら「お世話になっています」と頭を下げています(笑)。患者さんの身の回りのことを毎日してもらっているんだ、という気持ちを持つようにしています。また、たとえばわれわれ医師の背景に「医学」があり、臨床心理士には「心理学」があるように、看護師の背景には「看護学」があることを念頭に置くようにしています。看護師も同じ「医学」の下に動いているんだと発想すると失敗します。

「先生、発言しないでね」

私がまだ医師として2年目のときです。当時勤務していた病院は、チーム医療が非常に円滑に進んでいました。その中心的な役割を担っていた精神保健福祉士の方に「先生、今日のスタッフ会議では発言しないでね」と言われたのです。そこで黙ってスタッフの意見を聞き、最後に私が「そうしましょう」と言ったら、非常に上手くいきました。

一方、「医師が言うから仕方がない」と、チームの足並みをそろえることもできます。チームが何かピンチに陥ったときも「とにかく今は頑張ろう」と医師が言うと、チームが立ち止まることなく動きますね。

☆チーム医療こぼれ話☆

デス・カンファレンス

<医師> 岡部伸幸

■患者の死と医療者のバーンアウト

患者さんが亡くなられた後に、医療者が燃え尽きることがあります。患者さんの死は、医療者にとっても非常につらいことです。そこで、看取りの様子や家族の様子を話し合ったり、その後の家族から何らかのフィードバックがあると、救われるのですが、そうでないケースもたくさんあります。 私は骨髄移植と緩和ケアのチームにも関わってもいるのですが、ある看護師から「亡くなられた患者さんのことで相談をしたいのですが」と言われました。「移植は意味があったのか」など、悩みを話してくれました。

■精神科医が貢献

このような場合「デス・カンファレンス」が有効だと考えています。早く一般的になってほしい。まだシステム化はできていませんが、「相談があったら来てください」ではなく、精神科医がチームの一員にいることによって、チームの成長に貢献できると考えています。

<作業療法士> 堀木周作

<作業療法士> 堀木周作
医療法人和風会 加世田(かせだ)病院(鹿児島県)
リハビリテーション部 部長

熊本リハビリテーション学院、鹿児島大学大学院(保健学)卒業。1985年より如月会若草病院勤務、1994年より現職。鹿児島県作業療法士会の副会長も務める。


専門職の特性を発揮させるには

相手の専門性を知らないのは、お互い様

作業療法士(以下OT)の学術集会や技術研修会、専門ホームページなどで情報交換をすると、卒後10年未満の若手OTから、さまざまな悩みを聞きます。

「OTは“手工芸やレクリエーション、芸術活動を行う人”としか認識されない」「病棟職員が実施している作業やレクを、OTで点数請求できないの? と打診された」等々。

若手OTは「専門技術や根拠に基づいた意見、サービスを提供したい」のに、そうできないジレンマを抱えています。ところがチーム医療における上手な協働のあり方は、書籍や文献の中には見出せず、勉強会や講演会などで私たち先輩OTから経験談を聞いているのが実状のようです。

そんなときに私たちがアドバイスをするのは、
・相手の専門性を知らないのはお互い様であること
・私は○○の専門家や担当だからと我を通したり理論武装をしても、問題は解決しないこと
・病棟職員が打診してくるときは、背後に重要な意味が隠れている場合が多いこと
など、具体例を挙げればきりがありません。

現場の課題と、解決方法

これまで精神科におけるチーム医療で注目されてきた問題は、ネットワーク・システムの構築や、患者さんの問題解決をスムースに図るための方策についてでした。「職業文化の違い・専門性について知り合うためにはどうしたらいいのか」については、あまり論じられていません。ところが実際は前述のように、このことこそが現場で問題になっているのです。

ネットワーク・システムのあり方ばかりを論じ合っていても、チーム内で互いの専門性や職業文化を理解していなければ、現場はスムースに動きません。それぞれの専門的見方や考え方が、他の専門職とどのように異なり、どこが共通しているのか。お互いを知り合うために具体的行動を起こすことが必要です。たとえばカンファレンスで発言する機会があれば、専門家としての視点や仮説の導き出し方を、根拠(エビデンス)に添えて伝えることが、他の参加者の理解を高めます。クライエントの現状について意見するときは、まず理論やモデルの枠組みを前置きし、クライエント本人のこれまでの反応や行動様式の観察データ、同様の事例で問題解決に向かったケース、研究文献や事例集などから、よりエビデンスの高いものをベンチマーク(働きかけの基準)にします。また、予想されるバリアンス(基準からの逸脱)があれば、そのことや対策も併せて伝えるとよいでしょう。

このように日常場面で工夫することが相互理解に役立ち、実のあるチーム・コミュニケーションを形成していく一助となります。

福祉・地域との連携、お互いの歩み寄りを

福祉や地域と連携する場合も、相互理解が重要となります。たとえば就労を目指している患者さんがいたとします。

  1. 臨床心理士「労働が継続できるように心理的耐性やスキルを見守って欲しい」
  2. 看護師「整容や服薬管理をきちんとしてほしい」
  3. 精神保健福祉士「就労訓練受け入れ先への依頼や十分な事前調整をしたい」
  4. OT「働くという身体と心を動かす体験をさせながら援助したい」

院内のスタッフはそれぞれの思いがあり、何を優先すべきか迷うところです。しかし一歩外に出ると、すべての要素が求められます。就労支援事業関連の窓口はあくまでも保健福祉事業で、治療援助の延長としては捉えてくれません。さらに患者さんの就労に対する姿勢や一般常識、ガイダンスや就労訓練時の安定性、就労達成の可能性まで問われます。病院職員は、福祉や事業の目指すものについての事前学習と情報収集による理解が必要になります。相手のことを知れば、かみ合わなかった話し合いもスムースに進みます。最近はハローワークの障害者ジョブガイダンスなどは病院施設内でも実施してくれていますし、お互いの歩み寄りは大切です。

☆チーム医療こぼれ話☆

問題事例は、チーム成長の糧に

<作業療法士> 堀木周作

■個人的感情ばかりを述べる発言者……

チーム医療の現場では、ときとして個人的感情に基づく意見や態度によって、周囲の人が不快になったり、雰囲気を悪くすることがあります。たとえばチームの会議で、個人的な感情ばかりを述べる発言者がいたとして、あなたはどう感じるでしょうか。
たいていの場合、「自分勝手な人は嫌いだ」「私はもう少し共感してもらえるような言い方をしよう」「患者さんやご家族に対してあんな風に振る舞うことがないようにしよう」などと思うことでしょう。 このような場面で「個人的感情にまかせて発言するのはやめてください」と一蹴するのは簡単ですが……実はちょっともったいない話でもあるのです。

■なぜ、そう感じているのか

発言者が感情的になった理由が、そこにあるかも知れないからです。患者さんやご家族との関係、チームの機能不全などが隠されているかも知れません。
発言にイライラするよりも、「発言者がどうしてそのように感じているのか、一緒に考えてみましょう」とか、「○○さんは、この意見や感じ取り方を聞いてどう思いますか」と、進めたほうが断然実りのある会議になります。そこから信頼感や学べるものを見つけ出せれば、チームも構成員個人も確実に成長の道をたどります。よい結果を得た事例だけでなく、ミスや問題事も私たちを成長させてくれる要素を十分含んでいます。 人間はミスを犯す存在です。チーム医療の現場でも問題事はよく起こります。その前提を忘れないようにしたいものです。チームに関わる人々や、そこで起きる事態に対し、鳥瞰的視点から優しさをもって受け止め、真摯な態度で問題解決に望みたいものです。

<訪問看護師> 井上 新(しん)

<訪問看護師> 井上 新(しん)
医療法人社団草思会 錦糸町クボタクリニック(東京都)

2004年より現職。


常に出かけている訪問看護、情報共有のコツとは

常に地域に出かけています

クリニックの訪問看護部門に所属し、統合失調症の方を中心にご自宅を訪問しています。多いときは1日に4~5軒伺いますから、常に外出している状態です。訪問するときは原則として1人なので、クリニックに戻ってきたとき、何となく疎外感のようなものを感じてしまうこともあります。ですからクリニック内では、訪問の様子を話したりして、外来スタッフとコミュニケーションをとるようにしています。

悩みは一人で抱え込まない

訪問看護部門には、私たち看護師と精神保健福祉士がいます。普段はみんな外出していたり、他の業務があったりするものですから、機会を設けないとあまり訪問など地域ケアに関する話ができません。そこで「地域ケアミーティング」を毎月行っています。そこでは訪問看護に関わっている事務職員や医師も集まって、それぞれが訪問看護で抱えた問題点等を話し合い、医師の見解を聞くなどしています。

訪問看護先で困ったことや悩んだことは、一人で抱え込まず話すことが大切ですね。話を聞いてもらうことで、精神的な負担が軽くなることもあります。

訪問看護師として意識していること

チームの中で訪問看護師として忘れないようにしているのは、患者さんのホームグラウンドに入る貴重な役割を担っているということです。クリニックで見せる姿とは違う患者さんの様子を大切にしたいと思っています。

クリニックで患者さんに「薬を飲んでいますか?」と問うと、「はい」とおっしゃいますが、病状があまりおもわしくないことがあります。訪問してみるとやはり薬が余っていたり、まったく飲んでいなかったり。訪問していなければ、処方量だけが増えてしまったかも知れません。

このようにコンプライアンスのよくないケースがある一方、ほとんどの患者さんはきちんと飲んでいらっしゃいます。訪問していて思うのは、患者さんは苦労しながらも、そして満点とは言えないまでも、そこそこ地域で生活されているなあ、ということです。「家の片づけができないから、手伝いに来て欲しい」との要望で伺ったら、私の家よりきれいだったり(笑)。

訪問看護師で意見の違うことも

2人の訪問看護師が交互に伺うことがあります。「先週行ったけど、散らかってた?」との話になったときに、「いえ、きれいでしたよ」と。ところがもう一方の訪問看護師は「とても散らかっていました。援助が必要です」と言います。実は同じ状況の部屋を見ていたのに。散らかり具合を見るといっても主観もありますし、数値で表れるものではありませんから難しいですね。

訪問先の様子をどう共有するか

訪問先での情報は、主治医と会う機会があれば口頭で報告することもあります。また、当日の外来責任者にも特別なことがあれば報告します。特に報告が必要ないときでも「レビューノート」に訪問看護を行ったことを記載し、特記事項があれば書き添えます。「レビューノート」には、クリニックのそれぞれの部門が他の部門にも共有してもらいたいことが書かれていて、どのスタッフもだいたい目を通すようにしています。逆に、訪問する患者さんに受診のときに変わった様子があれば、それが書かれるわけです。訪問看護を導入してみては、などの提案もこのノートに記載されます。

訪問看護師は長期にわたる支援

精神科以外の訪問看護関係者から、研修会などで「ご自宅に行って世間話をしているだけですか?」と言われることがあります。確かに実際の看護処置は少ないですし、話をするだけ、患者さんが買い物に行く後ろをついていくだけ、散歩に同行しただけのこともあります。ですがそれらも長いスパンで見ると無駄ではないんです。「とても助けになりました」と、ずいぶん時間が経ってから、患者さんに言葉をいただくこともあります。

精神科訪問看護の成果は、すぐに見えるものではありません。私自身も急激な手応えを感じることは稀ですし、他職種から見れば「訪問看護っていったい何をやっているの?」と思われるのも当然かも知れません。でも、ぜひ長い目で見ていただきたいんです。あまり短期間では解決しないようなことを手がけているというのだから……と、つぶやきながら訪問看護をしています。

☆チーム医療こぼれ話☆

担当医と密なコミュニケーションをとるには

<訪問看護師> 井上 新(しん)

■栄養状態が悪化!

訪問先で生死に関わるような状況になったことはありません。ただ、食事が上手く摂れなくて栄養状態があまり思わしくないときがありました。すぐクリニックに連絡してエンシュアリキッドを処方してもらいました。すぐ飲んでもらったほうがいいと判断したんです。他にも自分が対処できないようなときは、やはりクリニックにすぐ電話をかけて医師や外来スタッフに相談します。

■コミュニケーションがとりにくい?

ただし担当医が非常勤だった場合、コミュニケーションのとりにくいことがあります。担当医が忙しいため仕方ない面もありますが、訪問先で困ったことがあった場合、例えば電話一本で聞くことなどはなかなか難しい現状もあります。

■「あのときに話しておけばよかった」と、後悔しないように

医師とコミュニケーションを密にするためのコツですが、とにかく積極的に担当医と話す機会を持つしかないと思います。 例えば診療の合間。外来スタッフに協力してもらい、患者さんが退室して、次の患者さんが入室する前にノックして診察室に入ることもあります。なかなかタイミングは難しいのですが、「あのときに話しておけばよかった」と後悔することがないようにと、いつも考えています。
また、ただちに担当医に伝えるほどではないことは訪問看護記録に記します。そこで自分の書いた箇所に特に目立つように付箋をしたり、マーキングしてみたり。意識して「ぜひ訪問看護記録を読んでください」とアピールするようにしています。

『CONSONANCE~精神科治療のトレンド~』2008 autumn(通巻第28号)
(ライフサイエンス出版(株) 2008年11月21日発行)より

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